神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第27話

「トロン、危ない!」
『くっ』
 ひねるように身体をよじると、一瞬前までトロンの頭があった場所が無数の弾痕で抉ら
れる。無残にも崩れ落ちるビルの壁面を横目で見ながらトロンは身をひるがえすと、一目
散に背中をみせ、ビルの裏側へと逃げていく。
『ちっ、ちょこまかと!』
 顔につけたマスクのせいでくぐもった声で舌打ちする対戦相手の神姫はヴァッフェバニ
ー。軽量のアーマーと射程を問わない豊富な銃器類を持つ神姫だ。対するトロンも入り組
んだ地形のほうが相手との接触を容易とするはずだが、元々ヴァッフェバニーも市街戦な
どを得意としているために、トロンも容易には接近できないようだった。
 ましてトロンも同じヴァッフェバニーの装備しているとはいっても、こっちはジャンク品を
かき集めた物のため全てのパーツがそろっておらず、武器にいたってはトロンが用意した
サバイバルナイフをブーツのケースに、そして小型の拳銃を一丁、腰のホルスターに収め
ているだけだった。
「これじゃ不利を通り越して絶望的じゃない。何を考えてるの、トロンのやつ?」
 あたしのつぶやきは断続的な銃声に遮られ、トロンには届かなかった。
 
                  わんだふる神姫ライフ
 
             第27話    「連戦」
 
「せめてあの時、ヴァッフェバニーに逃げられなかったら……」
 いまさらいっても始まらないが、トロンは一度だけヴァッフェバニーに肉迫することに
成功していた。
 けれど相手も戦いなれているらしく、接近戦の得意なトロンとの無駄な戦闘を避け、リ
アブースターを使い上空へと逃げてしまい、ブースターを装備していないトロンは黙って
それを見ているしかできなかった。
『まぁ、済んでしまった事をとやかく言っても始まらないんじゃない?』
 くやしそうなあたしの独り言が聞こえたのか、緊迫感のかけらもないトロンがインカム
を通して話しかけてきた。
「そ、それはそうだけど」
『それよりも入り組んだ地形に入ったみたいで、あの黒ウサギさんを見失っちゃったみた
いなんだ。そっちのレーダーで調べてくれない?』
「うん、わかった…………あれっ?」
 トロンに促され、コンソール上のレーダーパネルを覗き込んだあたしは、点滅を繰り返
す二つの光点がほぼ重なっているのに驚きの声を上げる。
『どうしたの、リン?』
「トロン、そこから逃げて! あいつ、上にいる!!」
 訝しげに尋ねてくるトロンの声を遮るようにインカムのマイクを口元に引き寄せると、
あたしは大声で叫んでいた。
『うえ?』
 あたしの声に上を見ていたら、トロンはおそらく蜂の巣になっていただろう。しかしトロ
ンは小さくつぶやくと全力で前方へ走り始めた。トロンの立っていた路面が突然砕け散
る。空を見上げるあたしの目に、空中でホバーリングを続けながら地上のトロンめがけ
て手にした小型ガトリングガン、STR6を猛烈な勢いで掃射するヴァッフェバニーの姿が
映った。
 全速力で逃げるトロンのすぐ後ろを、アスファルトの破片を撒き散らしながら無数の銃
弾が追いすがっていく。
『うわっ!』
 背後から迫る死のシャワーに気をとられたのか、トロンは足元の瓦礫につまずき転倒し
てしまう。
「トロン!」
 あたしはトロンを襲う光景を想像して思わず目を閉じてしまったが、なぜか銃撃の音は
ピタリと止んでしまった。
「?」
 そっと片目を開けてみると、トロンは仰向けになったまま上を見ていた。いままでの戦
闘で受けたダメージ以外に、とりたて傷は負っていないようだった。
 あたしが視線を空へと向けると、ヴァッフェバニーは何度かSTR6のトリガーをいじって
いたようだが、短く舌打ちすると、慌てた様に背後に手を回す。
「弾切れ?」
『ふ~、ラッキ~』
 呆気にとられたあたしの声に、トロンの安堵の声が重なる。
 トロンは一瞬の間も見せず、腰のホルスターから拳銃を抜き放つとヴァッフェヴァ二ー
に狙いを定めた。
「ミーア! いつまでもその武器にこだわるな!」
 マスクのせいで表情はわからなかったけど間違いなく動揺しただろう彼女、ミーアにマ
スターの叱責が飛ぶ。
『イ、イエッサー!』
 このままでは間に合わないと彼女も判断したのか、背後の予備弾倉に手を掛けていた
ミーアは手にしたSTR6を投げ捨てると、リアユニットに装着していた確かカロッテとかいう
名前のマシンガンを手にした。
『「「なっ?」」』
 だが、トロンに狙いを定めようとした電光石火の動きは途中で止まってしまった。いや、
ただ動きが止まったというだけなら、あたしたちも同じだった。
 仰向けになったまま上空のミーアに狙いを定めていたトロンは、なにを考えているのか
突然銃口を真上に上げ(つまり頭の方ってことね)発砲したのだ。
 だがトロンが手にした銃から打ち出された物はあたしたちが想像していた弾丸などでは
なかった。
『ワ、ワイヤーだと?』
 最初はあまりの細さに肉眼ではよく見えなかったけど、フィールドに設置された照明の
明りに反射して輝くそれは、ミーアが言うように確かにワイヤーのようだった。
 強力なガス圧によってものすごい勢いで突き進むワイヤーは、先端のアンカーをビルの
壁面に食い込ませ動きを止める。
『くそっ、フェイクだったのか!』
 てっきり狙い撃たれると勘違いし、自分の主力武器を捨ててしまったミーアは、トロン
の策略にはまったことに気づくと怒りもあらわに苛烈な射撃を開始する。
 けれど、ミーアの攻撃がトロンに届く事はなかった。トロンは手にしたアンカーガンの
モーターを逆回転させると、トロンの身体がワイヤーを巻き込む反動を利用して急加速を
始めたのだ。
『痛だだだだだッ!』
 背中をアスファルトで削りながら、トロンは両手で必死にアンカーガンにしがみついてい
た。それをミーアの放つ銃撃が追随する。
 リズミカルな音を立てながらミーアのマシンガンから吐き出される死の使いが、トロン
の足元に迫る。
 目の前にアンカーを打ち込んだビルが近づくと、トロンは足で地を蹴り、その勢いで半
回転しながら身を起こすと、ビルの壁面の窓のひとつに頭から飛び込んでいった。
トロンが飛び込んだ窓のすぐ下で、主を失ったアンカーガンが虚しい音を立てて壁にぶ
つかる音がする。
『な、なんなんだアイツは! 戦う気があるのか?』
 ミーアの方を見向きもせず、またビルの中へと姿を隠してしまったトロンを見て忌々しげ
につぶやくと、ミーアは地面に降り立ちトロンが潜り込んだビルへと一気に走り寄る。
 ビルまであとわずかというところで、トロンが飛び込んだ窓から、こぶし大の物が放り投
げられミーアの足元に転がってきた。あたしの位置からではそれが何かはよくわからなか
ったけど、ミーアがソレを目にした途端、いきなり彼女はものすごい勢いで地を蹴り、後ろ
へと跳躍した。
 その直後に耳を覆わんばかりの轟音がとどろき、激しく地面を揺するとモニターが黒煙
で覆われ何も見えなくなってしまった。
「なっ、ば、爆弾?」
『まぁ、厳密に言えば手榴弾かな』
 唖然としながらつぶやくあたしのインカムにトロンの声が響く。
「し、手榴弾って、あんたそんな武器もってたの?」
『借りたんだよ。あの黒ウサギさんからね』
「か、借りたって……あっ!」
 確かにあたしの記憶ではトロンは手榴弾などフィールドに持ち込んではいなかったが、
戦いの初めの方でトロンがミーアに接触し、一瞬ふたりがもつれ合ったのを思い出した。
 
             あの時、ミーアから手榴弾を盗んだってこと?
 
「ミーア! 相手はレスティーアやガーネットを手玉に取るほど悪知恵の働くヤツだ。い
ったん距離をおいて仕切りなおすんだ!」
 ミーアのマスターの核心を突く発言にあたしは反論も出来ず、思わずうつむいてしまっ
た。
『ゴホッゴホッ。イエス、マスター!』
 かなり薄くなったといえ、いまだに視界をさえぎる黒煙を必死に手で払いのけながらミ
ーアは移動を開始するが、トロンが飛び込んだのとは別の窓が突然割れ、何かが飛び
出してきた。
 反射的に音の方にカロッテを向けたミーアの動きが止まる。大量のガラスの欠片をまと
わりつかせてミーアの眼前を転がっていくのは、ただのコンクリートの塊だった。
『これはまた、随分と古典的な手にひっかかるんだね、キミって』
 カロッテを構えたまま身体を硬直させたミーアの背後で、トロンの人を小馬鹿にしたよ
うな声が聞こえる。
『……まったくだ。自分のアホさ加減に涙がでる。だが、このままキサマを楽に勝たせる
つもりはないぞ』
『へぇ~。この状態で、どんな奇跡の逆転劇をみせてくれるのか……楽しみだね』
 押し殺すような声で話すミーアに対して、トロンの声はどこまでも脳天気だ。だが、あ
たしにはわかった。ふたりの間に流れるピンと張り詰めた空気を。
 トロンに背後を取られたミーアが、いきなり手にしたカロッテを空に向かって放り投げ
た。反射的にトロンの視線も後を追う。
「トロン! それはフェイント!!」
 思わずシートから腰を浮かせながら叫ぶあたしに、小さく舌打ちしながら振り返るミー
ア。その手には大振りなナイフが握られていた。
 トロンの胸元、CSCがある当たりめがけて銀線が走る。
 たとえ、あたしの指示があったとしてもタイミングとしては完璧だと考えたんだろう。
だけどトロンだって、ライドシステムを使ったあたしとの地獄のような特訓に耐えてきた
んだ。
『……バカな』
 ミーアの口元に浮かんだ勝利を確信した笑みが凍りつき、彼女を見つめるトロンの口元
に会心の笑みが浮かぶ。
 必殺の闘志を込めたミーアのナイフは、そっとかざしたトロンの手刀(てがたな)によって
その流れを逸らされ、まるで見当違いの空間を貫いていた。
「今よっ!」
『応ッ!』
 あたしの声にトロンの応じる声が重なる。
 トロンはすばやく自分の軸線を移動させると、ミーアのナイフの捌いた右手でそのまま
彼女の手首の関節を極めると、流れるような動きでミーアの体勢を崩す。
 関節を極められたミーアは激痛のために身体の自由がきかず、その動きにあわせて泳ぐ
ような素振りでトロンの横を通り過ぎる。そしてミーアの喉元に、トロンの左肘が深々と
食い込んだ。
『がはっ!』
 カウンター気味に炸裂したトロンの一撃に大きくのけぞったミーアだったが、その動き
は不自然な角度で止まってしまった。
 あたしは目を細めると、ミーアの足元に視線を移した。そこには彼女の足の甲を踏み拉
いたトロンの爪先があった。
 そして、後ろに倒れそうになりながら突然その重心バランスを崩されたミーアに、音も
無く踏み込むと、トロンの一撃がミーアの胸元に炸裂した。
 それは何のことはない両手を使った掌底打ちだった。“一重”で相手の攻撃を捌きながら
その動きを封じ、重心を崩された相手に追い討ちの攻撃を加える。
 合気道の基本に忠実なこの技は地味と言われればそれまでだが、実際にはかなり強力
な技だった。
この状態ではまず受身など取れるはずもなく、アスファルトに後頭部を強打したミーアは
機能停止に追い込まれてしまった。
 おじいちゃんから教えてもらったこの技は、つい数日前にライドシステムを使った特訓で
トロンに教えたばかりのものだった。
『さて、ボクとしては、後はこのまま眠れる黒ウサギさんにとどめを刺すだけなんだけど
……それでいいのかな?』
 ピクリとも動かないミーアの横にしゃがみ込み、その喉元にブーツから抜き取ったナイ
フの切っ先を当て、今年一番の邪悪な笑みを浮かべながらミーアのマスターの返事を待つ
トロン。
「わ、わかった。降参する」
 悔しそうな表情をしながらも即答するミーアのマスター。
 フィールド上にミーアの降伏を意味する電子音が鳴り響くと、トロンの勝利を祝福する
文字が電光掲示板に表示される。
                          ※
「おつかれ、トロン」
 にこやかに笑いかけるあたしに、バーチャルバトル用のモードに設定を変更されている
アクセスポッドに横たわっていたトロンが静かに起き上がると、おおきな伸びをひとつし
ながらあたしの方に顔を向け、軽くウインクをしてきた。
 
        こうして、今日もひとつの戦いに幕が下りたはず……だった。
 
「よっ! 一ノ瀬ちゃん!!」
「ぶっ!」
 トロンの待つアクセスポッドのほうに歩きかけたあたしの背後で、割れ鐘を鳴らしたよ
うな大声が轟き、あたしは背中に殴られたような衝撃を受けた。
「痛った~。……桜庭さん! もう少し加減してくださいって前にも言いましたよね?」
 あまりの馬鹿力によろめきながらも、あたしは肩の辺りを押さえながら振り向き、怒り
もあらわに声の主を睨みつけた。
「あっ? わ、悪ぃ、軽く肩を叩いたつもりだったんだけどよぉ」
 あたしの迫力に気をされたのか、後ずさりしながら頭を搔く桜庭さん。
「で、あたしに何か用でもあるんですか?」
 あれのどこが軽くよ? と思いながらつっけんどんに用件を聞くと、パッと桜庭さんが
破顔しながらこう言ってきた。
「お、おう、それだよ、それっ! これから俺とバトルしようぜ、一ノ瀬ちゃん」
「は? あ、あの……」
「この間、約束したじゃんかよ! おい、狐姫! 出て来いよ!」
 一方的に話を進める桜庭さんは、自分の胸ポケットに大声で話しかける。
『ほほほっ、ようやくわらわの出番かや?』
 桜庭さんのポケットから顔を出したのは、変な口調で話す、確か“蓮華”とか呼ばれる
狐型の神姫だった。
 
     あまりの一方的な展開に、あたしもトロンもただ唖然とするしかなかった。
 
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