神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第29話

『リン、ちょっと聞きたい事があるんだけど』
 路地を疾走するトロンが、規則正しいリズムで呼吸を続けながら、あたしに話しかけて
きた。
「狐姫の防御について?」
『うん。やっぱりあれも、何かの武術なのかな?』
 あたしはとっさに即答できなかった。少なくともあたしが今まで出会ってきた武術のそ
れとは、何かが本質的に違っているような気がしたからだった。
「あたしにもわからない……でも狐姫の使っていたあの受けは、たぶん武術とかそういう
のじゃないと思う」
『え? それってどういう意味?』
 あたしの回答に驚いたトロンが、一瞬スピードをゆるめながら聞いてくる。
 トロンはまだ気づいてないみたいだけど、最後にトロンの頬を叩いた時意外に、狐姫は
一切両手を使っていなかった。トロンの攻撃をかわしていたのは独特な動きを持つ足捌
きだけだった。
「確証はないけれど、あれは……」
 それでもひとつだけ思い当たる節があったが、それを口にしようとした時、モニター越
しに目に飛び込んできた光を受け、次の言葉を失ってしまった。
 薄暗い路地を抜け、トロンが狐姫の待つ大通りに出たためだった。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第29話    「玉面公主」
 
『む~、もういやじゃ! 退屈なのじゃ! わらわは帰るのじゃ───!!』
「落ち着けよ、狐姫! もうすぐ連中も戻ってくるって」
『「…………」』
 ようやく戦場に戻ったあたしたちを待ち受けていたものは、通りの真ん中で大の字にな
って寝転がり、手足をバタつかせながら泣き叫ぶ狐姫と、困り果てた様子で彼女をなだめ
る桜庭さんであった。
「あっ! ほら見てみろ狐姫、連中戻ってきたぞ! おい、対戦相手ほっぽりだして随分
じゃないかよ。一ノ瀬ちゃん!」
 トロンの姿に気づいた桜庭さんが、こっちの方を指差しながら、ホッとしたような、少し怒
ったような複雑な声であたしたちに文句を言ってきた。
「あははは、ご、ごめんなさい。ちょっと作戦タイムを取ってまして……」
 あたしは胸の前で両手を組み合わせ、Tの字を作りながら、ごまかす様な照れ笑いを浮
かべ、桜庭さんたちに謝った。
『ごめんごめん、ボクからも謝るよ。少し冷却期間がほしくてね。ホラッ、後でアメでも買っ
てあげるから機嫌なおしてよ、狐姫』
『バ、バカにするでない。わらわは大人じゃ! アメなど要らぬわ!』
 苦笑いを浮かべながらトロンがそう言うと、狐姫はピョンと立ち上がり、顔を真っ赤に
してトロンに詰め寄った。
「もういいじゃあねえか狐姫。こんな事してたって時間の無駄だぜ。さっさとバトル再開
といこうや」
『む~、わかったのじゃ』
 いい加減うんざりしたといった感じの桜庭さんの声に、渋々とうなずく狐姫。
 あたしたちに背を向け、距離をとるためにテクテクと歩き始めた狐姫だったが、何故か
すぐに歩みを止めると、くるりとこちらを向きながらトロンを指差した。
『よいか、ストラーフよ! わらわはハッカ味はキライじゃ!』
『「…………」』
                        ※
「……という感じなんだけど、どう、やれそう?」
『うん、なんとかやってみるよ』
 あたしはバトルが再会するまでのわずかの合間に、対狐姫用の作戦を手短にトロンに
説明していた。如何せん時間がないうえに、あたしの勘が違っていたら何の役にも立た
ないという代物だったけど、考えられる対策としてはこれ以外にはなく、トロンにもそれは
わかっているのだろう。あたしを見る目は真剣そのものだった。
『む~、いい加減にするのじゃ! ストラーフよ』
『ハイハイ、今行くよ』
 まだペチャクチャとやっているあたしたちに、狐姫の怒声が浴びせかけられる。
 ヤレヤレといった顔で狐姫に向かうトロンの背中を、あたしは黙って見送った。
『さて、と、第二ラウンドの開始だね』
 小さくつぶやくと、トロンは狐姫との距離を詰めるため動き出す。それを見て薄笑いを浮
かべる狐姫だったが、自分に近づくトロンの姿を見ているうちに、口元に浮かんだ笑みが
みるみると消えていく。
 ふたりの距離は確実に縮まっていった。ただし、それに要した時間はさっきとは比べ物
にならないほど長かった。
 トロンは歩いていた。まるで、近所の公園を散策するかのようにスローペースで、一歩
一歩ゆったりとした動きで狐姫に近づいていく。
 狐姫はそんなトロンに驚いた表情のまま、なぜかピクリとも動かなった。そしてトロンは
狐姫にあと数歩というところまで歩み寄ると、いきなり大きく身体を反らし、自分より小柄
な体躯の狐姫にグイッと自分の顔を近づけ満面の笑みを浮かべてみせる。
『な、なんじゃ、お主は? 』
 いきなり自分の鼻面に顔を寄せ微笑むトロンに、怯んだ狐姫がたまらず数歩後ろに退が
る。
トロンは無言のまま数歩前進して、狐姫との距離を詰める。
『や、止めい! 気色の悪い』
 相変わらず一言も言葉を発せず、目の前で天使の笑みを浮かべるトロンに、あきらかに
動揺する狐姫。今度は横に移動しようとするが、素早く回り込むトロンに阻まれ逃げること
ができない。
『ひっ!』
 
                         やっぱり!
 
 狐姫の瞳に浮かんだものが、動揺から恐怖に変わった時、あたしは自分の予想が当たっ
ていたことに確信を持った。
 それは、狐姫がさっき見せた防御は完全に相手の攻撃を避けるだけの物であり、恐らく
直接的に攻撃へと繋がるような類のものではないというのがあたしの考えだった。
 最初は、そんなバカな? という顔をしていたトロンだったが、話を聞いていく内に自分
でも思い当たる節があったのだろう。最後には、あごに手を当てたまま考え込んでいた。
 そして、あたしが対狐姫用の作戦としてトロンに指示したのが、一切の攻撃をせず、狐
姫に肉迫するというものだった。あたしの予想が外れていたら自殺行為ものだったけど、
なんとか最悪の事態は回避できたようだった。
 
 そして、ここからが本番だった。狐姫は一見すると大人びて見えるが、実際はわがまま
な子供そのもののような性格だから、このままの状態を維持できればきっと……
 
『い、い、いい加減にせい! この不埒ものめ!!』
 いくら逃げようとしてもすぐに目の前に現れるトロンに、とうとう我慢の限界がきたのか、
狐姫は手にした扇でいきなりトロンに殴りかかった。
 だが、相変わらず微笑み続けるトロンの顔を強襲するはずの狐姫の扇は、下から突き上
げるように出されたトロンの手刀によって、いとも簡単にその軌道を変えられてしまった。
 右手の甲を滑るように通過する扇が、それを握る狐姫の右手へと変わった時、トロンは
狐姫の手首をつかむと一気にねじり上げた。 
 突然の激痛に顔を歪めた狐姫は、少しでも痛みを和らげようと無意識に身体を浮かすが、
トロンはその一瞬の隙を見逃さなかった。
 大きく体勢の崩れた狐姫の足を払うと、極められた手首を中心に狐姫の身体は真円を描
きながらアスファルトの道路へと叩きつけられる。
 すかさずトロンは狐姫をうつぶせにすると肩関節に手をそえ、そのまま握っていた手首を
力まかせに捻りあげた。
『!? 痛い! 痛い! 痛いのじゃ~~~ッ!』 
 道路に打ち付けられた衝撃で気を失っていた狐姫が、自分の身体を襲った痛みで目を覚
まし、大粒の涙をポロポロと流しながら地面をバンバン叩いて泣き叫んだ。
 こういったリアクションを起こすとは思っていたけど、実際目の前で幼さの残る狐姫の
悲痛な叫びを聞くのは胸が痛んだ。
 さすがにトロンも気まずいらしく、困ったような表情であたしを見ている。
 でもあたしは、トロンに攻めるのを止めさせることができなかった。それは、さっきからあた
しの頭のなかを渦巻いていたもうひとつの疑問が、明確な形をとったからだった。
 狐姫が使っていた体捌きが防御専門のものだったとしたら、一体狐姫は今までどうやって
バトルで勝ってきたのだろうか? 桜庭さんの口ぶりからも狐姫の実力がこんなものとは思
えなかった。
 
 狐姫はトロンを甘く見ていただけで、まだ全力をだしきってはいない! ならば、狐姫が
奥の手を出す前に勝負を決めるべきだ。
 
 理屈としてはわかっていても、眼前の狐姫を見ていると躊躇してしまい、あたしはトロンに
攻撃の指示を出す事ができなかった。
『う~、わらわに対するこの仕打ち。許せん! 許せんのじゃ!! 美雪、すぐに“玉面”の
用意をせいっ!』
 
                        ぎょくめん?
 
 痛みと悔しさからか、顔を真っ赤にしながら叫ぶ狐姫の言葉を、どこかで耳にしたこと
があったような気がしたあたしは眉をひそめた。
「……まったくよ~、だから俺が言ったろ? 最初っから“玉面”を着けてりゃあ、こんな
目にあわずに済んだのによ~。 待ってな、今そっちに送るからよ」
 苦笑いを浮かべながら、自分のコンソールでなにやら桜庭さんがゴソゴソとやっている。
 あたしとトロンがそろって怪訝な表情を浮かべていると、桜庭さんサイドが用意した追
加アイテムの使用を知らせるメッセージが、フィールド上に表示される。
 トロンとは違い、フィールド内に武器や装備を持ち込まなかった狐姫が、とうとう全力
を出す気になったようだった。
 そして、トロンに押さえ込まれていた狐姫が、突然光につつまれる。目を細めて光から
顔を背けていたトロンだったが、輝く光が再構築され本来の姿に変わっていくのを見ると、
狐姫の戒めを解き後方へと飛び退った。
『ほほほ、これがわらわの“玉面”じゃ! 覚悟せい、ストラーフよ』
 不敵な笑みを浮かべながら、ムクリと起き上がる狐姫。その立ち上がった姿は以前とな
んら変わらない感じだったが、背部に複数のパーツが追加されているのが見てとれた。
 それは一見すると、複数の剣を束ねた蓮華の基本武装のようにみえたが、刀身にあたる
部分に刃が見当たらなかった。
 それが狐姫の背後から、左右各四本づつ装備されていた。そして、ブレード状のパーツ
の間からは、それらよりもさらに大型な箱状のパーツがひとつ見えていた。
 合計九本にも及ぶそのパーツは、すべて薄い黄金色に塗装されており、かすかに振動し
ているようだった。
「う~ん、ぎょくめん、ギョクメンねぇ……玉……あっ、思い出した!“玉面公主”ね」
『うわっ!? 何、そのギョクメンなんとかって?』
 さっきから頭の片隅にひっかかっていた事をようやく思い出したあたしは、両手を打ち鳴
らし、大声を上げてしまった。
 インカムを通してあたしの大音量を拾ってしまったトロンが、苦痛に顔をゆがめ、耳をふさ
ぎながら問いかけてくる。
「あ、ごめん。 玉面公主っていうのはね、西遊記にでてきた悪役、牛魔王の奥さんの名前
で……確か第二夫人だったかな? それで一説にはその玉面公主には九つの尾があった
という話なのよ。つまり“九尾の狐”ね」
『ふ~ん、九尾の狐ねぇ。それにしても、よくそんなこと知ってるね、リン』
「ま、まぁね」
『ふつうは、そんなマニアックな名前を知ってる人なんていないと思うんだけど。リンがマニ
アックなのは外見だけで充分だとボクは思うんだけどねぇ』
「山盛りでっけぇ、お世話よっ!!」
 めずらしく感心したような素振りをみせるトロンに、内心鼻高々になっていたあたしだった
が、意地の悪そうな笑みを浮かべながら毒を放つトロン。
 あたしは歯を剥きだして、噛み付かんばかりの勢いで威嚇した。 
『それにしても、九尾の狐も結構なんだけど、あんなんで戦えるのかな?』
「……うん」
 しげしげと狐姫を見るトロンの呆れたようなつぶやきに、思わずあたしもうなずいてしまっ
た。目の前の狐姫は、大きく後方に展開している玉面を背部に装備しているためにバラン
スが悪く、妙にヨロヨロとしているのだ。
 あれでは狐姫の長所である、足捌きを使ったディフェンスも役に立たないだろう。
『狐姫が何を考えてるのかわからないけど、こうなったら先手必勝!』
「あっ、トロン!」
 あたしが止める間もなく、わずかに身を屈めると、トロンは一気に狐姫めがけて走り始
めた。確かにトロンの考えは間違ってはいないだろうけど、この時、あたしの胸を言いよ
うのない不安がよぎった。
『ほほほ、このうつけ者が!』
 ニンマリと小悪魔のような笑みを口元に浮かべ、狐姫の両目がわずかに細まると、背中
の玉面が孔雀の羽根のように左右に大きく広がった。
『わらわを傷つけたその罪、死をもって償うがよいぞよ。ストラーフ!』
 これ以上近づくのは危険と判断したのか、トロンはその場で立ち止まり、身構える。
 狐姫の背後で展開した玉面が閃光に包まれると、白煙を噴き上げながら射出される。
『な、ガン・ポッド? しまった!』
 中空高く飛翔する玉面を見て、その正体をいち早く察したトロンが慌てて身を隠そうと
するが、いつの間にかトロンを包囲するように四方八方に飛び散ったポッドが、一斉にそ
の砲口から目も眩むようなビームの斉射を開始した。
「トロンッ!」
 
 ビームの輝きに包まれその姿が見えなくなったトロンに、あたしは背後のシートを跳ね
飛ばすように立ち上がり、声の限りに叫んでいた。
 
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