神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第32話

「いや~、まいった、まいった。完敗だよ!」
 目の前で巨体を揺すりながら大笑いする桜庭さん。テーブルに置かれた缶コーヒーが、
その振動を受けてカタカタと揺れている。
「それにしてもよう、一ノ瀬ちゃん。さっきから気になる事がひとつあるんだけどなあ」
「な、なんですか。気になる事って?」
 テーブルから落ちそうになった缶コーヒーを慌てて受け止めながら、あたしは声だけ桜
庭さんの方に向け、次の言葉に耳をかたむけていた。
「いや、それなんだがよ。コレは一体なんだい?」
 ビクッと身体を震わせあたしが視線を前方に戻すと、さっきまでとは一変して桜庭さん
が真剣な表情を浮かべ、テーブルの一点を指差している。
「え~、それはトロンです。信じられないだろうけど……」
 あたしの視線の先には、とろける悪魔と化したトロンが何故かピクン、ピクンと身体を
痙攣させ、口元にだらしのない笑みを浮かべテーブルの上に寝そべっていた。
 
                    わんだふる神姫ライフ
               第32話   「ナイトメア」
 
『ふ~む。では、コレがわらわと戦っていたストラーフというのかや。トナリよ?』
 恐る恐る、手にした扇でトロンを突付きながら狐姫があたしの方を向くと、そう尋ねて
きた。さっきのマジになったトロンの迫力にはあたしも思わずビビったほどであり、まだ
心配そうにまだトロンを突付いている狐姫を見て、正直変なトラウマを受けてなきゃいい
なと、あたしは内心眉をひそめていた。
 でも、当の本人であるトロンは、何度も自分を突付く狐姫のことを鬱陶しそうに薄目を
開けてチラリと睨んだだけで、もう狐姫には興味がない、といった様子でプイと反対側に
顔を向けてまう。
「それにしてもよ~。なんか縮んでないかい、トロンの奴?」
 一応は納得してくれたようだが、それでもなお、テーブルの上の物体を怪訝な目で見て
いた桜庭さんがポツリとつぶやく。
「やっぱり桜庭さんも、そう思いますか?」
 桜庭さんの疑問は、実はあたしも以前から抱いていた物だった。寝ぼけモードのトロン
の顔の輪郭がタルんで見えるのはともかく、その身長は他の神姫と比べると妙に低く見え
たのだ。
 
今までは、光の屈折現象かなんかが原因でそう見えるのだと自分に言い聞かせてきた
のだが、やっぱりこれは現実のようだった……
 
 もっとも、ふたりが奇異な目をトロンに向けるのは、ある意味しょうのないことなのだろう。
 あたしだって目の前のたれあくまと、戦っている時のトロンが同一人物(神姫)とは、いま
だに信じられないのだから。
 だいたい、基本的に性格がゆがんでいるというのは同じだとしても、このふたりには、あ
まりに差があるように思えてならない。
 寝ぼけトロンが、全てにおいてやる気のなさとだらしなさが具現化したような性格と中性
的なイメージがあるのに比べて、バトル時のトロンは多少厭世的な雰囲気があるものの、
凛としたその姿は口調もふくめて、まるでやんちゃな男の子といった感じだった。
「それにしても、あの時の爆発には驚いたよなー」
 ひとり延々とトロンのことを考え続けていたあたしは、いきなり投げかけられた桜庭さ
んの蛮声に我に返った。
「へ? 爆発?」
 あたしはその時になって、ようやく狐姫とのバトルでフィールドのスーパーが大爆発を
起こし、そのことを疑問に思っていたのを思い出した。
 あの爆発はあたしたち三人にとってもナゾだった。その答えを知るのは、そう、その張
本人だけだ。
「ねえ、トロン。あのスーパーの爆発、あんたいったい何をしたの?」
『ア~、アレ? アレはネ、店のなかに小麦粉をバラまいただけだヨ』
「小麦粉? 小麦粉って料理に使うアレ? なんでそんなもんで……」
「なるほど、ありゃあ粉塵爆発だったのか!」
 あたしたちの会話を聞いていた桜庭さんが両手を打ち鳴らしながら叫んだ。
「粉塵爆発って、なんなんですか?」
「ああ、粉塵爆発ってのは、大気などの気体中に、ある一定の濃度の可燃性のある粉塵が
浮遊した状態で火花なんかにより引火して大爆発を起こす現象なんだけどよ。普通は工場
なんかでアルミニウム金属粉なんかが引火して爆発するってパターンなんだが、トロンの
奴はきっと小麦粉で代用を……って、どうした! 一ノ瀬ちゃん?」
 小難しい話が死ぬほど苦手なあたしが、ソファーにもたれ掛かりながら瀕死の状態になっ
ていると、桜庭さんが驚いた様子で話しかけてきた。
『リンは頭よくないからねェ。ムズカシイ話をするとこうなっちゃうのサ。だいたいリンのCPU
は8ビットくらいしかないシ』
「あたしは大昔のゲーム機か?」
 億劫そうに身を起こすと、腰のあたりをポリポリと掻きながらぽつりとつぶやくトロンに、ぐ
ったりとしながらとりあえずツッコミを入れる。
 ようやくトロンがバトル中に粉まみれになっていた理由に合点がいったあたしだったが、
それよりも思った以上に博識な桜庭さんに驚きを隠せず、同時に先のバトルで感じていた
もうひとつの疑問を思い出し、そのことを尋ねてみた。
「あの桜庭さん、さっきのバトルで狐姫が使ってたあの足捌きはいったい……」
「ああ、あれか? あれは、俺が日本舞踊をやってるもんで、それを見ているうちに覚え
た狐姫が、それをデフェンスに応用したみたいだな」
「に、日本舞踊?」
『さすがは最後のショゴス! ボクの想像のななめ上を行ってるヨ……』
 確かに狐姫の舞うような足捌きに、もしや? と思っていたが、桜庭さんのミスマッチ
極まりないこのセリフにあたしは驚愕してしまった。トロンも愕然としながら流れ落ちる
汗を手で拭っている。
『ほほほ、わらわの舞いは、それは美しいと評判なのじゃ。機会があったら一曲披露して
やるぞ、トナリよ』
「そ、そうね。楽しみにしてるわ……」
 なんかこのふたりが着物姿で舞ってる姿はいろんな意味で幻想的なんだろうな~、
などと失礼な空想にふけっていると、桜庭さんは、ふと思い出したように話しかけてきた。
「そう言えば、レスティーアとの再戦をヴァーチャルバトルでやるって噂を耳にしたんだ
が、リアルバトルじゃ都合でも悪いのかい?」
 さも不思議そうに尋ねてくる桜庭さんに、あたしは咄嗟にどう答えていい物か迷ってし
まった。実際この店でもそうだが、現在の神姫バトルはリアルバトルが主流であり、あた
しのようにヴァーチャルバトルしかしないオーナーというのはかなり珍しい存在のようだ
った。そんな現状では、リアルバトルをごく普通のものと考えている風な桜庭さんにあた
しの胸のうちを話しても、きっと理解してはもらえないだろう。
 あたしが返事に窮し黙っていると、桜庭さんは短く刈りそろえた髪に乱暴に爪をたてな
がら何かに納得するようにつぶやいた。
「まっ、そこらへんは人それぞれか……それに今のリアルバトルが当たり前みたいな風潮
がなければ、あんな事件も起きなかったかもしれないしな……」
「事件?」
 おうむ返しに聞きなおすあたしに、桜庭さんが意外そうな顔をする。
「半年ぐらい前に各地の神姫センターや、ここみたいな個人経営のショップに無差別にリ
アルバトルを挑んできた神姫のことさ。結構有名な話なんだが、知らなかったのかい?」
 その言外に、少し呆れたと言うような響きを含んだ桜庭さんの声にカチンときたあたし
だが、確かに以前、そんな事件があった事をニュースや新聞で見て神姫をそんな事に使う
なんて随分と身勝手な人がいるものだと、ひとりで腹を立てていたのを思いだした。
 
でも、確かこの事件って……
 
「あれ? その神姫って、確かどこかの神姫ショップを襲った時に返り討ちにあって破壊
されたって……ひょっとしてその店って……」
 あたしはピンと閃くものがあり、身を乗り出して桜庭さんを問い詰めよった。あたしの
迫力に気おされたのか、桜庭さんはソファーに身体をめり込ませ、首を縦に振った。
「ああ、どうやらその店ってのは、ここの事らしいんだがな……」
 確かにあの事件が終結した神姫ショップの名前は、当時のワイドショーなどでも一切公
表されなかったけど、まさかDO ITのことだったなんて、あたしはにわかには信じら
れなかった。
「まあ、あくまで噂の域はでないんだが、あながち作り話ってわけでもないんだよ。俺は
当日、ここにはいなかったんだが、あの日を境にこの店にいくつか異変があってな」
「異変……ですか?」
「ああ。まず事件の翌日から一ヶ月もDO ITが臨時休業したってのがひとつ。そして
あの日以来、当時の常連がごっそりと店に来なくなったってのが、もうひとつの理由だ」
 遠い目をしながら話を続ける桜庭さんを、あたしは黙って見つめていた。店から姿を消
した常連のなかには、桜庭さんの友人や知り合いも何人かいたらしい。
 そして、彼らに連絡をとってみても、当時の話になるとみな貝のように押し黙り、何も
語ろうとしないのだそうだ。
「でも、店長さんはこの事を知っているはずですよね?」
 ふと思いつき、そう聞いてみたが、桜庭さんは苦虫を噛み潰したような顔をして首を横
に振るだけだった。
「その店長が頑なに沈黙を守っている奴の筆頭なのさ。まあ、自分の店でそんな物騒な事
件が起きりゃあ口が堅くなるのも当然だろうが……それに姫宮たちもこの件は一切話そう
としねえしな」
「ひ、姫宮先輩があの事件に関わっていたというんですか?」
「あくまで噂だが、な。あの日、この店にきていたらしい」
 思いもしなかった人の名前がでてきて動揺してしまったが、姫宮先輩はあたしにならひ
ょとして詳しい話をしてくれるのでは、と微かに思っていると、桜庭さんがあたしの心を見透
かしたように静かに話しかけてきた。
「……もし、姫宮から話を聞こうってんなら止めたほうがいい」
「な、何故で……」
 ギクリとしながら振り向くと、桜庭さんは見るものを震え上がらせるような迫力を秘め目
であたしを見ていたが、その瞳の奥に悲しみの色が浮かんでいるのに気づき、あたしは
それ以上言葉が続かなかった。
「あの事件で、かなりの数の神姫が破壊されたらしい。もし姫宮があの日、ここに来てたの
ならそれを目の当たりにしたはずだしな……俺たちが店長や姫宮たちに必要以上に説明
を求めねえのもそれを思ってのことなのさ。いまさら昔の傷口を広げるような酷なことはした
くねえしな……」
「…………」
 好奇心から先輩たちに対する思いやりを欠いていた事に気づき、うな垂れていたあたし
を励ますように明るい声が頭上から投げかけられる。
「まあ、もう済んだことさ。いつかはあの事件も記憶の奥に忘れ去られる。そんときゃあ、
レスティーアも“黒騎士”に戻るかもしれねえしな」
「黒騎士?」
 聞きなれない名に首を傾けていると、桜庭さんは意地の悪そうな笑みを浮かべながら話
を続けた。
「やっぱり知らなかったか。今でこそノーマルのサイフォスにしか見えねえが、あの事件
の前にレスティーアが呼ばれてた二つ名さ……もっとも、本人からすりゃあ皮肉以外のな
にもんでもないだろうがな」
 意味がわからず、桜庭さんにあたしが問いかけようとすると、今まで無言であたしたち
の会話に耳を傾けていたトロンがポツリとつぶやく。
『あのサァ、ショゴス。それってどんナ……』
『これっ、美雪よ。そろそろ時間じゃぞ?』
 珍しく口ごもりながら桜庭さんに話しかけるトロンの声を、壁にかかった時計を扇で指
しながら狐姫の甲高い声が遮る。
「おっといけねえ。もうこんな時間か? 一ノ瀬ちゃんよ、俺ちょっと野暮用があるんで
今日はこれでふけるわ」
「あ、はい。あの、今日は色々ありがとうございました」
 ソファーを軋ませながら腰を上げる桜庭さんに、あたしは反射的に立ち上がるとペコリ
と頭を下げた。片手を上げながらドスドスと地響きを立て去っていく桜庭さんの背中に、
ねむそうなトロンの声が投げかけられる。
『ンッ、南極までは遠いから気をつけて帰るんだゾ、ショゴス! それとヤボ用ってなん
なんダ?』
「おう、これから習い事があってな! 今日は華道の稽古と俳句の歌合せがあるんだよ」
「『…………』」
 自動ドアの向こうに消えていく桜庭さんの後ろ姿を見送りながら、あたしとトロンは、
おそらく同じことを考えていただろう。
 
                      聞くんじゃなかった! と。
  
     ※
     
 桜庭さんが去った後も、休憩所のソファーに腰掛けたまま、あたしはゆっくりと辺りを
見回した。
 通路の奥で、ひとつだけ点滅を繰り返す照明や周りの壁。そしてあたしが座っているソ
ファーもそれなりに歳月を感じさせ、お世辞にもキレイとはいえなかった。
 もうかなり時間も過ぎているというのに、耳を澄ませばバトルの結果に一喜一憂する人
たちの放つざわめきや、自分の神姫と楽しそうにおしゃべりをするオーナーたちの声が微
かに聞こえてくる。
 
       ここにいる人たちは何も知らない。少し前のあたしのように……
 
 あたしがトロンと出会い、まだ二ヶ月もたっていないけど、この店でそんな大変な事が
あったなんてまるで知らなかった。
「信じられない。ここで大勢の神姫が死んだなんて……」
『……ショゴスも言ってたでショ? もう終わった話だっテ』
 思いつめたようにつぶやくあたしに、天井を見上げていたトロンが口を開いた。
『ダイジョーブだヨ。どんな神姫がでてきてモ、ボクがリンを守ってあげるからサ!』
 どこからそんな自信がでてくるのか、今にも倒れ込まんばかりにねむそうな顔で腰に
手を当て、鼻息も荒く言い切るトロンを見ていたあたしは、こみ上げてくるおかしさをこら
えることができなかった。
「ぷっ、あはははは! あんた、どこからそんな根拠レスな自信が湧いてくるわけ?」
 どうにも耐えられずおなかを抱えて笑い出すあたしを、トロンが憮然とした表情で見て
いるのに気づくと、滲んでくる涙を指でぬぐいながらトロンに謝った。
「ご、ごめん。まさかあんたの口からそんなセリフを聞くとは思わなかったから。でも、
トロンの言うとおりかもね?」
 テーブルの上に差し出した手によじ登ってくるトロンを見つめながら、あたしは小さな
声でつぶやいた。
 
「もう、“悪夢”は終わったのだから……」
 
 
 あたしのつぶやきに呼応するかのように、点滅を繰り返していた照明が……消えた。
 
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コメント


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狐姫との決着も付いて、やっと一安心と言った所だと思っていたのに、過去の壮絶な事件が表に浮かび上がってくるのが怖い所ですなぁ。

当時の事件と、レスティアの二つ名「黒騎士」の喪失、更に実際に何が起こったかを知る真実の行方と様々な謎を残しつつの続きは非常に気になりますね~

そして、トロンさんの2面性が性格だけで無く、身体的にも2面性があると言う驚愕の事実も判明しましたねぇ。
トロンさんの変化が何故起こるのかという謎も出てきて、伏線がどんどんと増えてきましたな~

これからも続きを楽しみにしていま~す。

そして、桜庭さんのご趣味に吹きましたわw
日舞に華道に歌合せって風流すぎて、見た目とのギャップが異常すぎですよw
まぁ、狐姫の防御に役立っているのは良いんですが、リアルで会ったら逃げ出したくなりますなw

何というか、登場人物達が濃いですよね~
これからも、面白い登場人物を楽しみにしてま~す。
(´・ω・`)ノシシ

ASUR・A | URL | 2012-09-30(Sun)17:02 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

ヘンなキャラたちが巻き起こすドタバタSSも、ようやく核となる部分にたどり着きました。

レスティーアやかおりだけでなく、主要キャラの何人かはこの“事件”に関連する出来事に関わっています。
まだ先の話ですが、いずれはこの“事件”が本SSのメインとなると思いますので、お楽しみに。

ほんとうに、伏線ばかり貼ってしまって、この物語を完結できるのか不安を覚えます(笑)。

トロンの身体的特徴なのですが……実はコレ、伏線でもなんでもなかったりします。
元ネタとなった“トロン”をひきずってしまい、こんな設定になってしまいまして(あそこまで、小さくはないですが)……。
ほんとうに、いろんな意味でありえない神姫になってしまいました(汗)。

最初はちょい役として考えていた桜庭ですが、気がつけばサブキャラのなかではかなりお気に入りの存在になってました。
日舞や華道が趣味というのも、外観とのギャップを狙った後付け設定でした。

キャラが濃い、というのは最高の褒め言葉ですね(壊れているともいいますが(笑))。
これからも、どこかヘンなキャラが出てくると思います。

次回もお楽しみに。

シロ | URL | 2012-10-01(Mon)07:46 [編集]


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