神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第33話

「おっかしいなあ……」
『ン~、どしたノ?』
 タンスの中に頭を突っ込むようにしてゴソゴソとやりながらつぶやくあたしの声に、ク
レイドルの上でイビキをかいて眠っていたトロンが気づいたらしく、気乗りのしない声で
尋ねてきた。
「その、数が……足りなくて」
『数ってなんノ?』
「え~と、だから……下着の……」
 わけがわからんと言った様子で声のトーンを上げてくるトロンとは対照的に、あたしの
声は小さくなっていったが、この時キュピンと閃くものがあり、トロンを見る目がみるみ
る鋭くなっていくのを感じながら静かに話しかけた。
「ねえ、トロン。まさかあんたじゃないわよね?」
 怪訝な顔をしていたトロンだが、すぐに言葉の意味を理解したのか、眉を寄せながらム
ッとした口調で文句を言ってきた。
『あのネェ、ボクがリンのパンツなんか盗んでどうするワケ? だいたい…ン? ……リ
ン、アレはナニ?』
「あれ?」
 プルプルと震える指でトロンが指差す先にあるのは、あたしのお気に入りのクッション
だった。
 
で、その下からはみ出して見えるのは……あたしの……パンツ?
 
「あ、あはははは、……ごめん! あたしの勘違いでした! 本当にすいません! ねっ
もう機嫌なおし……」
 さすがにバツが悪く、一生懸命に謝るあたしの声を、こっちに背を向けたままふて腐れ
たトロンの声が無常に遮った。
『だいたいサァ、ボクがリンのパンツなんか触るわけないだロー! ビョーキになったら
どうすんのサ?』
「…………」
 あたしは下着姿のままユラリと立ち上がると、わなわなと震える指先でドアを指し示し
ながら押し殺したような声でつぶやいた。
 
「おい悪魔……ちょっと話あるから表に行こうか?」
                                        
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第33話    「隣の日常」
 
「はあ、はあ、はあ、セ、セーフゥ……」
 風のように校門に駆け込んだあたしの背後で、門扉を閉めようとしていた風紀指導の
先生の、驚きと怒りのこもった視線があたしの背中に突き刺さる。
 滝のような汗を流し、肺も心臓も破裂寸前というありさまだったけど、あたしは頭を掻き
ながら引き攣った笑みを浮かべると、そこから逃げるように立ち去った。
『す、すごいヨ、リン。コースレコード(登校時間)を35秒24もブレイクだヨ!』
「はあ、はあ。べ、別にあたしは……き、記録に挑戦しているわけじゃあ……ない!」
 校舎まであと少しというところでついに力尽き、両手をひざに当て、あえぐように呼吸
していると、あたしのブレザーの胸ポケットから興奮しながらトロンがわめき散らす。
 あの後、逃げるトロンを追いかけて家中走り回ったあたしは当然遅刻寸前となり、今日
も己の限界に挑む羽目になってしまった。
 あたしは自分の事はとりあえず棚に上げ、事の元凶を殺意のこもった目でギロリと睨み
つけたが、トロンのヤツは少しも気にした素振りもみせずひとりではしゃいでいる。
「お~い、一ノ瀬ぇ~」
 いきなり名前を呼ばれ、頭上を振り仰ぐと、あたしのクラスのある窓から佐山さんが大
きく手を振りながら笑いかけていた。
よく見ると、窓の端のほうで秋野さんが目から上を覗かせ、小さく手を振っている。あ
たしも最近親しくなったふたりのクラスメートにあいさつをしようとしたが、佐山さんは
両手を口元に当てながら、あたしの声を遮るように話しかけてきた。
「一ノ瀬~、もう少し急いだほうがいいと思うぜ。林のヤツ、もうそこまで来てるってよ」
「げっ」
 あたしは青ざめながら、担任の先生に追いつくために不平を漏らす身体に鞭を打ち、絶
望的な気分で再び全力疾走を始めた。
 
                         ※
 
「こんな生活もうイヤだ。こんな生活もうイヤだ。こんな生活もうイヤだ。こんな……」
 机に突っ伏しながら、熱病にうなされているかのようにあたしは同じセリフを何度も何
度も繰り返した。
 結局、あたしの必死の爆走は報われる事はなく、遅刻の罰としてあたしは授業中バケツ
を持って廊下に立たされるという屈辱的な目にあったのだ。
「あの、大丈夫? 一ノ瀬さん」
「あはは、今時あんなレトロチックあふれる罰を受けるやつなんてお前ぐらいだよな?
ほら、記念に激写しといたぜ」
「もう、陽子ったら、悪趣味だよ?」
 携帯をちらつかせながら愉快そうに笑う佐山さんを、眉をひそめながら秋野さんが窘め
る。身体を動かすのも億劫になっていたあたしはゆっくりと顔を持ち上げ、すがるような
瞳で佐山さんを見つめると、なぜか佐山さんは真っ青な顔をしながら携帯を取りだし画像
の消去を始めた。
 
                  ヘンなの……
 
『いヤ~、それにしてモ、波乱万丈な人生を満喫中だネ、リン』
 殺意を覚えるほど能天気な声がすぐそばで聞こえ、あたしはノロノロと視線を移すと、
目の前にチョコンと座っているトロンに射るような視線を送った。
「おかげさまでね。あんたと会ってから冗談みたいな人生歩んでるわよ……」
『むゥ~、失礼だナァ。ボクと出会っテ、リンだって良い事たくさんあったじゃないカ!』
「……疲れてるせいかな? まったく思い当たる節がないんだけど……よかったら参考
までに教えてくれない?」
 ぐったりと机に顔を押し当て話すあたしに、『しょうがないなァ~』とかブツブツ言いなが
ら、トロンは机の上に投げ出してあったノートに身の丈ほどあるシャーペンを使ってなに
やら書き始める。
『はイッ』
 しばらくして、嬉しそうな顔をしたトロンが差し出したノートには、なにやら腸捻転をおこ
したミミズがのたうち回ったような文字(?)が書いてある。
 目を凝らして解読してみることしばし、何とか次のような文になった。
 
                 ➀ 足腰が強靭になった
 
                 ➁ ツッコミ上手になった
 
                 ➂ キレやすくなった
 
「……あのさあ、これって良い事になるの? 特に三番……」
『うンッ、もちろんサ!!』
 根拠不明の輝くような笑みを浮かべながら親指を突き立てるトロンの後ろで、なぜか佐
山さんと秋野さんが感心したようにうなずいている。
 なんか納得いかなかったので、トロンに一言いってやろうと顔を向けると、次の授業を
知らせるチャイムが鳴り響いた。
 慌てて席に戻るふたりを横目に、あたしは大きなため息をつくと、無言でトロンを机の
中に押し込み授業の準備を始めた。
 
                         ※
 
「ふ~ん。じゃあ設計図みたいなのは完成してたんだ?」
『ふふフ、まあネ』
 休み時間特有のざわめきのなか、あたしは机に頬づえつきながら、トロンと向き合って
いた。
 佐山さんたちが仲良く連れ立ってトイレに行ってしまったために手持ち無沙汰になった
あたしは、トロンから対レスティーア用の装備の説明を聞いていたんだけど、正直話の半
分もわからない有様だった。
「でもさあ、図面ができたのはいいとしても、それってDO ITで頼むのよね?」
 あたしは、さっきからうずいている軽い頭痛を振り払うかのように、トロンに話しかけ
る。
 DO ITでは、あたしのような機械音痴のために武器や装備の改造やオーダーメイドを
請け負ってくれるサービスもあるのだが、しがない高校生のあたしにはそう簡単に頼め
るほど安価なものではなかった。
 少しでもトロンの力になってあげたいと思う気持ちはあるのだが、如何せん由緒正しい
小市民の家系に生まれたあたしの貯金は、情けないことにもう底を尽きかけていた。
 悩みが顔に出ていたのか、トロンが心配そうな表情を浮かべながら近づいてくると、ソ
ッとあたしの手に自分の小さな手を重ねてくる。
『大丈夫だヨ、リン。とりあえず大〇草のタネの入手先と栽培方法は調べておいたかラ』
「……悪いんだけど、あたしはあんたのために犯罪に手を染める気は毛頭ないわよ!」
 一瞬でもこの悪魔に胸キュンとなった自分を心の中で罵りながら、キッパリと言い切る
と、トロンがすっげー不満そうな顔をする。
「な、何よその顔? だいたいあんたはねぇ! ……はぁ、やっぱりバイトでもするしか
ないのかなぁ」
 思わず口をついて出かかった文句を飲み込むと、代わりに特大のため息をしながら現状
を打開するための唯一の方法を口にする。
 そんなあたしを見上げながら、トロンも思い直した様にしんみりとつぶやく。
『そうだよネ。冷静に考えてみたラ、あんまり時間もないしネ。〇麻は無理かモ……』
「……いや、だからその犯罪にどっぷり染まった考えを止め……」
『ムッ、なんかボクひらめいちゃったヨ!』
 急にあたしの話をさえぎり、ポムと手を叩きながら得意そうな顔をするトロン。本当に
人の話聞かねぇなあコイツ、とムッとしたあたしだったが、トロンのヤツは気にした素振
りもみせずペラペラと話しを続ける。
『もウ、こうなったらリンのパンツ売るしかないヨ! みさキチだったら「脱ぎたてよ♪」
とかリンが言えバ、一枚三万円ぐらいは軽く、ブッ!
「大却下よっ! このバカ悪魔!!」
 あたしは吐き捨てるように一喝すると、力一杯拳を振り下ろした。
「まったくもう、ろくな事考えないんだから!」
 あたしの下着を握り締め頬擦りをしている美佐緒の姿が頭にチラついたとたん、激しい
悪寒に襲われたあたしは、おぞましい考えを追いやるように頭を振ると机に目をやった。
 トリ肌に覆われたあたしの拳の下から、断末魔の痙攣を繰り返すトロンの手足が垣間見
えた。
                           ※
 
 あたしの背後で立てつけの悪くなったドアが派手な音を立てて閉まる。大股で席に戻っ
たあたしを、机を向き合わせて座っていた佐山さんと秋野さんがキョトンと見ている。
「ね、ねえ、一ノ瀬さん。よかったら彼女も誘ったら?」
「ううん。あいつはやさしくするとつけ上がるから、これくらいでちょうどいいのよ」
 女の子らしい小さな弁当箱を手にしたまま、おずおずと話しかけてくる秋野さんに、あ
たしは微笑みながら答えた。
「いまの一年坊、確か神代だよな?」
 惣菜パンをくわえたまま、ドアの方を見ていた佐山さんがそう尋ねてきた。
「うん、そうだよ……って、よく知ってたね?」
 なぜかあたしの弁当箱に倒れこむようにして爆睡中のトロンを、器用に箸でよけながら
答えると、佐山さんは秋野さんと顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
「知ってるもなにも、お前らいつも一緒じゃん」
「そうよ。ふたりの仲がいいのはクラスのみんなも知ってるわよ? もう、随分と長いつ
き合いなんじゃないの?」
 呆れたような顔をするふたりを玉子焼きを口に運びながら見ていたあたしは、箸の動き
を止め、ドアの方を振り返った。
 ドアにはめ込まれていた磨りガラスに、もう美佐緒の影は映っていなかった。
 
                            ※
 
「……ずっと待ってたの?」
「はい」
 見事な夕焼けを背に校門のそばに立ち、にこやかにあたしを見下ろす美佐緒を、あたし
逆に見上げながらため息まじりにつぶやいた。
「ハァ……ほらっ、帰るわよ!」
「はいっ♪」
 スタスタと歩き始めるあたしを慌てて追いかけてきた美佐緒は、すぐにあたしの横に並
んで歩きだす。
「そういえば、ガーネットの姿が見えないけど、どうしたの?」
「今日は家でお留守番なんです」
「ふ~ん」
 短い会話も終わり、無言で歩いていたあたしたちだが、しばらくして目の前の大きな夕
日を見つめていた美佐緒が、はずむような口調で話しかけてきた。
「最近ではこんなきれいな夕日、めずらしいですよね、せんぱい?」
「そうね」
 手を額にかざし、目を細めて夕日を見ながらあたしは口数少なくそう答えた。近頃の夕
日は、なんかくすんで見えたが、子供の頃に見た夕日はこんな感じだった。
「なつかしいな~。……くす。ねぇ、せんぱい。昔みたいに「となりお姉ちゃん」って呼ん
でもいいですか?」 
 あたしと同じことを考えていたんだろうか? 美佐緒はあたしの前に回りこむと、イタズラ
っ子のような笑みを浮かべて、ずいぶんと懐かしい呼び方をしてきた。
 
      そういえば、美佐緒はあの頃、いつもあたしのことをそう呼んでたっけ。
 
 あたしは美佐緒と初めて出会った時のことを思い出していた。 
 美佐緒の実家はあたしの住む町一番の大地主であり、その家の一粒種である美佐緒は
ひとりでいる事が多く、なにかにつけて近所の悪ガキどものいじめの対象になっていた。
 昔からそういったことが大きらいだったあたしは、美佐緒がいじめられるのを目撃する
たびに、連中と取っ組み合いのケンカを始める毎日だった。
 そんな日々が続いたせいか、当時は人見知りが激しかった美佐緒だが、あたしをお姉ち
ゃんと呼び、何かにつけてまとわり付くようになった。
 それを鬱陶しいと思った時期もあったけど、あたしは美佐緒を突き放すことができなかっ
た。
 多分それはお互いがもつコンプレックスのせい。美佐緒は家柄に、そしてあたしは自分
の容姿に。あたしはそんな美佐緒に、親近感のようなものを感じていたのかもしれない。
「もうっ、せんぱいっ!?」
 はっと我に返ると、すぐ目の前で頬をふくらませた美佐緒があたしを睨んでいた。その
ハムスターみたいな顔を見ているうちにあたしは笑いがこみ上げてきてしまう。
 
 ヘンなやつだけど、美佐緒はあたしにとって自分の本心を包み隠せず話せるたったひと
りの……ううん、今はもう一人いたっけ……
 
 あたしはさっきから制服の胸ポケットから顔だけ出してこっくりこっくりしているトロ
ンを見ながら、そんなことを考えていた。
「ほら、もう遅いし全力で帰るわよ?」
 あたしは夕日で赤く染まった頬の本当の理由を悟られないために、全力で走りだした。
 後ろから美佐緒の足音がついてくるのが聞こえる。
 

      こうして、とても普通とはいえないあたしの一日が終わろうとしていた。
 
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コメント


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今までのストーリーが、急転直下のジェットコースターの様なストーリー展開でしたが、今回は「トロンさんと一緒に居る隣さんの日常」的な良い神姫ライフですね~

今回みたいな回が「わんだふる神姫ライフ」の題名にマッチしているというか、元々シロさんが思ってたストーリーですかね?

しかし、日常の会話の中でも色々な伏線が入りましたね。
美紗緒さんの想いや隣さんの想い、今後のトロンの武装をどうやって制作するか等、今後どう展開していくか楽しみになりますね。

今回の回が、息抜きの様な役割をして、次回が一気に進みそうな気もしますが、毎回楽しみに読ませてもらってま~す。
次も楽しみに待ってますよ~

ASUR・A | URL | 2012-10-14(Sun)00:01 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

今回の話は、ちょっと息抜き的な気分で書いてみました。
ストーリーとは直接関係のない話でしたが、いつものドタバタに加え、隣と美佐緒の出会いや、なにゆえ美佐緒のセクハラともいえる(歪な)愛情表現を受け続けても二人の関係が変わらないのか?
そんなところにスポットを当ててみました。

そういう意味では、今回みたいな話は、このSSのタイトルに沿ったモノかもしれません。

次回からは、いよいよトロンの専用装備が出てくるなど、この物語も終盤へと差し掛かります。
ヌルいSSではありますが、次回もがんばります!

シロ | URL | 2012-10-14(Sun)22:28 [編集]