神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第34話

「自分で武装を作ってるって……トロンのやつが?」
 あたしの何気ない一言に、佐山さんは道の真ん中で歩みを止めると、驚いた様子でそう
聞き返してきた。秋野さんもキョトンとした顔をしている。
 神姫は機械なんだからそれぐらいできて当然なんだろうと思い込んでいたあたしは、そ
の考えが如何に一般的ではないと言う事実を、ふたりのリアクションで理解した。
「それで、トロンの姿が最近見えなかったのか」
 あごに手を当て、ひとり納得していた佐山さんは興味を持ったのか、詳しい話を聞きた
がり場所を喫茶店に移す事になったのだが、持ち合わせのなかったあたしはふたりを待た
せて近くのコンビニに飛び込んだ。
 あたしは、『時間がないから作業に集中したい』と家に篭もり、ここ数日ひとりでゴソゴソ
と何かやっていたトロンの後ろ姿を思い出し、意外そうにつぶやいた。
「それにしても、あいつにそんな特技があったなんて意外よね~。でも、いつの……ん?」
 ATMの操作パネルを叩いていたあたしの指がピタリと止まり、食い入る様に画面を見つ
めていたあたしの身体はワナワナと震えだす。
「おっ、やっと終わっ!?」
 自動ドア越しにあたしに気づいた佐山さんだったが、そのドアを突き破らんばかりの勢
いで飛び出してきたあたしに驚き、後ろに跳び退る。
「ごめん、ふたりとも! 急用ができたから詳しい話は明日するね!!」
 唖然とするふたりの直前で急停止しながら手短にそう言うと、あたしは全速力で家への
道を走り始めた。
 今までの最短時間で家に着いたあたしが玄関に駆け込み、脱ぎ捨てた靴がくるくると空
中で回転を続けている間に、一気に二階まで駆け上がった。
「トロンッ! あんたいったい!!…………何? その格好……」
 ドアを叩きつけるように開け放ち部屋へと飛び込んだあたしは、机の上に立つトロンの
後ろ姿を見た途端、全身から噴き出していた怒りのオーラは瞬時に消し飛んでいた。
『お帰り。リン』
 ゆっくりとした動作で振り向いたトロンは、金色の瞳であたしを見つめながら微笑んだ。
 
                     わんだふる神姫ライフ
 
                第34話  「ソウルテイカー」
 
「“魂を刈り取る者”?」
『うん。なかなか良いネーミングだと思わない?』
 確認するようにつぶやくあたしの目の前で、トロンは愁眉を開く。あたしはそんなトロ
ンの新装備を、穴が開くようにマジマジと見ていた。
 パッと見た感じはヴァッフェバニーの装備のように軽装備のアーマーみたいだが、全体
に曲線で構成されたラインはバニーのアーマーと同じく黒一色で塗装されていて、闇のな
かにあってもなお混じることなく浮かび上がるその光沢は禍々しささえ感じられた。
 全体を装甲に覆われ妙に長い両腕や、大きく張り出した肩アーマーなど、以前より装甲
が強化されたような感じだが、胸部アーマーの下から大腿部まで身体を覆うものは何もな
く、むしろ以前の装備よりもトロン自身の可動性を重視しているのは、あたしのような素人
目にも明らかだった。
「それにしても、よくこの短時間でこんなもの作ったわね」
『ま、突貫工事で作ったんで完璧というわけにはいかないけどね。それにちょっとだけ予
算もオーバーしちゃったし』
 そこまで話してぺロッと舌をだすトロンを見て、あたしはこの部屋に戻ってきた理由を
思い出し、震える指をトロンに突きつけた。
「そ、それよ! あたしの講座から勝手にお金引き出したのって、やっぱりあんたの仕業
だったの?」
『うん、そうだよ。いや~、最初はリンと決めた予算内で、って思ったんだけど、いざ作
り始めたらアイディアが滾々と湧きだしてきちゃってね~。ホント、ボク、思わず自分の
才能が怖くなっちゃったよ』
 まったく気にした風もなく、シレッと答えるトロンの顔を唖然としながら見ていたあた
しだったが、講座の残金が0と表示されていたATMの画面を思い出し、頭を掻きながら
照れまくってるバカ悪魔に怒りとともに最大の疑問を叩きつけた。
「なに自画自賛してんのよ! だいたい神姫のあんたがどうやってお金を下ろしたの!」
 機関銃のように浴びせられる質問に、はじめはキョトンとしていたトロンだったが、す
ぐに胸の前でパタパタと手を振りながら笑い始めた。
『ああ、そのこと? まあ、さすがに神姫のボクがお金を下ろすは不味いよね? でも安
心して、ちゃんと監視カメラには細工しといたからボクの姿は写ってないよ』
 あたしはニコニコと答えるトロンを指差したまま、開いた口が塞がらないということわ
ざを己の身体で再現しつつ、眼前の“悪魔”を見下ろしていた。
「さ、細工って、それ犯罪でしょう? だいたい、何であんたがあたしの暗証番号知って
んのよ!」
『……そのことなんだけど、ボクもリンにひとつだけ言いたい事があったんだ』
「な、何よ?」
 まるで悪気を感じさせないトロンの態度にカチンときたあたしが顔を口にして文句を言
っていると、急にまじめな表情になったトロンが話しかけてきた。まっすぐにあたしを見
つめる瞳は真剣そのものであり、その迫力にあたしは口ごもった。
 生唾を飲み込むあたしを見ながら、トロンは静かに口を開く。
『リン……生年月日を暗証番号にするのはやめたほうがいいと、ボクは思うんだ……』
「………………」
 
 え~、このようにカードなどが盗難にあった際、暗証番号を生年月日などに設定すると、
現金を引き出される可能性が非常に高くなりますので、みなさんも注意しましょう。
 
                    チ、チクショ────────ッ!
 
                          ※
 
「それはそうとして、……今度こんな馬鹿なことしたら、粉々に擂り潰すわよ?」
『ハイ』
 椅子に腰をおろし腕を組みながら、机の上で正座をしているトロンを睨みつけると、あ
たしはこめかみを引き攣らせながら言い放った。
 トロンに言ってやりたいことは山のようにあったが、とりあえずあたしはトロンの頭で
揺れる、たんこぶで出来たマトリョーシカ人形を見下ろしながら今回はそれで我慢するこ
とにした。
「で、その新装備ですぐにレスティーアと戦えるの?」
『う~ん、できればテストをかねて何度か模擬戦をやってみて、微調整をしてからじゃな
と、さすがに無理かな?』
 一生懸命頭を擦りながら答えるトロンにあたしは小さくうなずくと、椅子に身体をもた
せかけ天上を仰ぎ見る。
「そうすると、問題はひとつ……ね」
 あたしは天井の一点を凝視しながら、誰にともなくつぶやいた。
 口をへの字に結びながらあたしが思案しているのは、トロンの対戦相手のことだった。 
DO ITでも屈指の実力者である、ガーネットとレスティーア相手に善戦したトロンは、
何故だか一部の神姫やそのオーナーたちから敬遠されているようなのだ。
 別にトロンは勝ったわけでもないのだからそんなに警戒する必要などないと思うのだけ
ど、噂話に妙な尾ひれがついているのか、和尚さんや桜庭さんのような例外を除くとあた
したちが対戦を申し込むとやんわりと断られることが多く、バトルひとつするにも大変な思
いをするといった状態だった。
「しょうがないわね。トロン、あんたのテストの相手はあたしがやるわ!」
 あまりあたしが相手になってもパターンが偏るのではないかと心配していたのだが、レ
スティーアとの再戦の日までもう余り時間がなかった。
 こうなったら店長さんにライドシステムを使わせてもらうしかないと、あたしが決心した
ように立ち上がると、トロンがあまり乗り気ではない口調であたしの話に割って入って
くる。
『まあ、ボクとしてもこの装備でリンと戦ってみたいという気持ちはあるんだけどね。
でも、それはボクの打った手が駄目だった時にしようよ』
「手を打ったって、あんた今度は何を企んでいるの?」
 胡散臭い物でも見るような目で尋ねるあたしに、トロンが唇の端を少し吊り上げる。
『企むとは随分な物言いだね。……実はショゴスに相談してみたら、対戦相手を見繕っ
てくれるっていうんだ。多分もう少し待ってれば、リンの携帯にメールがくるんじゃないか
な?』
「何よメールって? あんた、何勝手に人のメアド教えて……ん?」
 頭に血が上ったあたしが大きな声をたてながらトロンを睨みつけていると、制服のポケ
ットに入れてあった携帯が振動し始める。
 携帯を引っ張り出して見てみると、メールの着信を知らせるマークが点滅していた。
表示されているアドレスに見覚えはなかったけど、ひょっとしたらと思い、とりあえず
(何、このお約束的なタイミングは?)と心のなかでツッコミを入れながらメールに目を
通す。
                           
拝啓 早春の候、木々の芽もふくらみ春めいてまいりましたが、一ノ瀬様におかれまし
ては、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、先日トロン様よりお話のありましたご依頼の件でございますが、わたくしどもで
探しましたところ、ようやくトロン様との対戦を快諾してくださる方がみつかりました。
 ただ、先方の希望もあり、きたる〇月☓日、午後六時よりDO ITにてバトルを始め
たいとの事です。
 つきましては、急な事とは思いますが、一ノ瀬様にも同時刻に来店していただければと
思います。 
 
 季節がら風邪などひかぬよう、お体を大切にしてください。
乱筆乱文にて失礼いたします。                     
                                                 敬具
                                              桜庭美雪
                            ◆
『…………なにコレ?』
 いつの間にかあたしの携帯を覗き込んでいたトロンが、あまりに和風チックなメールに
放心したように尋ねてきた。
「……それはあたしが聞きたいわよ……」 
 よくメールになると、妙に丁寧語を使う人がいるという話を聞いたことがあるけど、そ
の実例を目の当たりにしながらあたしは桜庭さんって一体どうゆう人なんだろうと考え、
ふと机の横のカレンダーを見て視線が釘付けになる。
 
                      〇月☓日って今日じゃない!
 
『え~と、やっぱり行くの?』
 あたしの視線からトロンも察したのだろう。ポリポリと頬を掻きながら苦笑いを浮かべ
ている。
「桜庭さんに頼んだのはあんたの方なんでしょう? だったら桜庭さんがせっかく対戦相
手をみつけてくれたんだから、こっちが出向くのが筋ってもんじゃないの! それよりも
トロン。あんたその格好で、もう出かけられるの?」
『まあ、ボクは身一つで大丈夫なんだけど……って、うわっ!?』
 あたしは時計を見ながら私服に着替えるのをあきらめると、とりあえずトロンと最低限
必要な品をショルダーバッグに放り込み、駅に向かって爆走を開始した。

                          ※
 
「ぜぇ、ぜぇ。……お、お待たせ…しま…した……」
 自動ドアに持たれかかり、息も絶え絶えになっているあたしに気づいた桜庭さんが、大
股であたしに歩み寄ってくる。
「よお! 思ったより早かった、って顔色が悪いみてえだけど大丈夫かい?」
「はあ、はあ。……まあ、なんとか……」
 心配そうにあたしの顔を覗き込む桜庭さんだったが、あたしが無理矢理浮かべた笑み
を見るや、何故か恐怖に顔を引き攣らせる。
「あ~、じゃあ、さっそくだが始めるかい? おいっ!」
 大きな咳払いをひとつすると、桜庭さんは背後に話しかけた。すると、今まで桜庭さん
の巨体に隠れて気がつかなかったけど、ひとりの男性が姿を見せた。
 その人は中肉中背の身体つきだが、やたらと目つきの鋭い人だった。
「あの、今日はトロンの相手をしてもらうために無理を言ってすみませんでした」
 そう言ってあたしはペコリと頭を下げたが、その人は口をきこうともせず、あたし身体
を頭のてっぺんから爪先までじろじろと見ているだけだった。
 さすがにその失礼な態度にムッとしたあたしが負けじとにらみ返していると、気まず空
気を察したのか、慌てて桜庭さんがあたしたちの間に割って入ってきた。
「すまねえなあ、一ノ瀬ちゃん。コイツ、悪気はねえんだが昔っから愛想がなくってな」
 その人は、桜庭さんの言葉に気にした素振りもみせずその巨体を一瞥すると、ようやく
薄い唇を開き、気だるそうに呟いた。
「時間が惜しい、すぐに始めよう……タイガ!」
 男の言葉を待っていたのか、すぐそばのカウンターに座り込んでいた小さな影が音もな
く立ち上がる。 
タイガと呼ばれた寅型の神姫ティグリースは、オーナーと同じく無遠慮にこっちを眺め
ていたが、それにも飽きたのか人を小馬鹿にしたような口調で話しかけてきた。
『ふん、おまえがトロンか? 最初に言っておく。おれに小細工は効かない、とな』
 あたしはその時になって、タイガの視線があたしではなく、ショルダーバッグから顔を
覗かせていたトロンにそそがれていたことに気がついた。
 いつもだったらとうに寝ぼけモードになっているはずなのに、ソウルテイカーを纏って
いるせいか、はたまた今のタイガの態度に触発されたのか、トロンは爛々と輝く金色の
瞳で値踏みでもするようにジッとタイガを見つめていた。
『それはどうもご丁寧に。じゃあ、ボクからも忠告をひとつ。ボクが小細工ぬきで戦った
らキミ、あっという間に瞬殺されちゃうけど……それでもいいのかな?』
 バッグの淵に両腕をかけながら、ニヤついた顔で答えるトロンに、みるみるタイガの顔
が朱に染まっていく。
 
              間違いなく、舌戦だけならあんた最強だわ。
 
 そんなことを考えながら苦笑するが、あたしは二人の間に張り巡らされた殺気を敏感に
感じ取っていた。
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コメント


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遂に、今まで一部しか公開されていなかったトロンさんの武装がお披露目するんですか~

ソウルテイカーという名前も一部公開された黒色の武装に似合っていて良い感じですね。
そして、次回明らかにされそうな武装の能力が、どの様な物か好奇心が止まりません。
今分かっている範囲では、ライトアーマークラスの軽量型の武装に上半身だけを重点的に覆う変則的な装甲というだけですし、どの様に活用されるかも楽しみですね。

そして、ショゴスの本当に見た目とのギャップが激しいのは普段の稽古事以外にメールの文面にまで及ぶのですな・・・
何と言うか、見た目ゴリマッチョ、中身は大和撫子な感じですよねぇ。
外見を和風お嬢様にしたら、内面と合いそうですが、今のままでは外見だけで惚れた女性が真実を知ったらギャップで全力で逃げ出すレベルに近いですよねw
もう、こうなったらいっその事、料理上手スキルも付けて女性陣の女のプライドをへし折れる程のギャップを付けてしまいましょうよw
付き合えるのは男らしいバリバリのワーキングウーマン位のズボラ女性を見つけるしな無くなる位にw

さて、今度の対戦相手は相手を見下す寅型と無愛想なマスターですが、どうやって戦うのか楽しみですね。
そして、寅型のタイガさんの戦闘方法も一筋縄ではいかない気がしますし、どうなる事やら。

では、続きも楽しみにまってま~す。

ASUR・A | URL | 2012-11-02(Fri)23:11 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

ようやくトロンの専用武装「ソウルテイカ―」が登場しました(な、長かった……)。
まあ、名前の割に武装とか地味なんですがね(苦笑)。

美雪は初期の設定では、トロンがソウルテイカーを使ってはじめて戦うバトルで、対戦相手の神姫オーナーという役回りでした(そして、一話で消える予定でした(笑))。
それが、まさかここまで活躍することになるとは自分でも思いもつきませんでした。

キャラの隠し味として追加した純和風な性格も、なんだか成功した感じですですしね。
私としても、動かしていて楽しいキャラになりました。

料理ですか? まずやってるでしょうね(笑)。
その腕前も、SSにでてくる他の女性キャラより、かなり上なのではないかと思います(笑)。

ソウルテイカーという専用武装を得たトロンですが、やはり一番の武器は「アレ」だと思います。
次回からはじまるバトルを、楽しんでもらえればと思います。 

シロ | URL | 2012-11-03(Sat)07:35 [編集]