神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第36話

『それって……どういう意味?』
 唖然としているあたしの心を代弁するかのように、訝しげにトロンが口を開く。
『どうもこうもねえ! お前が戦う理由を聞いてんのさ。あの女への義理か? それとも
強制されてるのかってことだよ!』
 義理? 強制? タイガの言っている言葉の意味が、あたしにはまるで理解できなか
ったけど、少なくとも彼女が本気で激昂しているのはあたしにもわかった。
 トロンもあたしと同じ思いだったのだろうか。チラリとあたしの方に振り向いたが、す
ぐに視線をタイガに向けてしまう。
『……キミが何を言いたいのかボクには理解できないけど、ひとつだけはっきりと言える
ことがある。……それは、ボクが戦う理由は義理でも強制でもないってことさ』
 凛とした態度で答えるトロンを無言で見ていたタイガのマスターだったが、しばらくし
て、ようやく気だるそうに口を開く
「……そうすると君が戦う理由は他にあると……例えば彼女とか……失礼だが彼女にそこ
まで尽くす価値があるのかな?」
 そこまで話と、タイガのマスターはある一点に視線を投げかけた。あたしの方に。
 トロンはポカンとしていたが、小さく頭を振った。
『ボクが戦うのはボク自身のため! それだけさ。 それともうひとつの質問の答えだけ
ど……リンはボクにとってなにものにも変えられない存在だよ』
「トロン……」
 いつもの砕けた雰囲気は微塵もなく、金色の瞳に真摯な光を宿し、タイガのマスターを
真正面から見据えるトロンにあたしは胸がつまり、それ以上言葉を紡ぐことができなかっ
た。
『……そう、ボクにとってリンは、たったひとりの大切な……』
「…………」
『……嫁だから……』
「嫁じゃねぇ───────ッ!!」
 
                わんだふる神姫ライフ
 
              第36話  「ソウルテイカー そのさん」
 
『え──ッ!? ひ、酷いよ、リン! あの夜の浜辺で誓いあったボクとの約束を忘れち
ゃったの?』
 ヨロヨロとよろめきながら近くにあった建物の壁に手をつくと、絶望に顔を歪ませ、ト
ロンのバカは悲痛な面持ちであたしに問いかけてきた。
「あ、あたしはあんたと夜の浜辺になんか行ったことないし、そもそもあんたと結婚する
なんて言った記憶も絶無よッ!」
『じゃ、じゃあ、ボクの子供を産んでくれるっていう、あの約束は?』
「誰が、産むか───────────ッ!!!」
 顔を真っ赤にしながら店中に轟く声で絶叫するあたしに、まるで雷にでも打たれたよう
な表情になったトロンが、ガックリと膝を着く。
 うつむき表情は見えなかったけど、その身体は微かに震え、みるみるアスファルトの上
に大粒の涙が零れ落ちる。
『そんな……ボクのことは遊びだったの? 酷いよ……リンの悪魔ッ!』
「……“本物”に悪魔呼ばわりされる謂れはないわよ!」
 目の淵に大粒の涙を浮かべたまま、恨みがましい目であたしを見つめるトロンに、どう
でもいい気持ちになりながらも、とりあえずあたしは反射的にツッコミを入れていた。
 頭の血管が何本か切れたんじゃないかと思えるほど激昂していたあたしだったが、何度
もトロンの猿芝居に引っかかってしまう自分の単純さに、我ながら呆れ果ててしまった。
 思わず特大のため息が出そうになったが、突然聞こえたくぐもった声に驚き、途中で止
まってしまう。
 声の主はタイガのマスターのものであり、徐々に高くなっていくその声は、笑い声だっ
た。
 その異様さにあたしや、まだ猿芝居を続けていたトロンはおろか、さっきから話につい
ていけずボ~っと立ち尽くしていたタイガまでがギョッとした様子で彼を見ていた。
 しばらく心底楽しそうに笑っていたタイガのマスターだったけど、ようやくあたしたちの
視線に気づくと笑うのを止め、二、三度頭を振ると照れくさそうに微笑んだ。
「……いや、すまない。……そうか……“嫁”か……」
 そう言いながら、タイガのマスターはあたしを見る。その顔は以前と代わらぬ無機質な
ままだったが、瞳に浮かぶ険の強さが和らいでいるように見えたのは、あたしの気のせい
だったろうか?
「……タイガ、<雷舞>の使用を許可する……」
 そうつぶやきながら、あたしたちを一瞥したタイガのマスターの顔は、いつの間にか元
に戻っていた。
『お、おい!』
「……お前もわかっているはずだ。あのストラーフの……トロンの実力はな……」
『くっ!』
 思わず口をついてでた反論も自らのオーナーに一喝されたタイガが、悔しそうに唇を噛
み締めると、その瞳から炎を噴き出さん勢いでトロンを睨みつけ、押し殺すようにつぶや
いた。
『ふん、まあいい。おい、トロン! こっからが本当のクライマックスだぜ!』
 ビッと指差すタイガの視線の先で、トロンはゆっくりと立ち上がりながら唇の端を持ち
上げ、タイガを見つめている。
『ふ~ん。 まぁ、あんまり無理しない程度にがんばってよ。トラ子ちゃん♪』
『おれの名前は……タイガだ─────ッ!!』
 あからさまに小馬鹿にするようなトロンに、こめかみを引き攣らせながらタイガの絶叫
がこだまする。
 そして真鬼王の巨体が激しく振動すると、その双眼が光を放った。
『えっ、うわっ!?』
 その一撃をかわせたのは偶然だったのだろうか。紙一重で身を捻ったトロンの頬をかす
めながら真鬼王の腕が通り過ぎ、背後にあったビルの壁面に擂り鉢状の窪みを穿つ。
 一見するとタイガの初撃をかわした時と同じに見えたけど、その繰り出された速度と驚
愕に彩られたトロンの表情からも、さっきの一撃とはまるで別物だった。
『けっ、よく避けたな? だがこれからが本番だぜ───ッ!!』
 トロンの顔に浮かんだ焦りを敏感に感じ取ったのか、余裕を取り戻したタイガが吼える
と同時に、真鬼王は赤い突風と化してトロンに襲いかかる。
『くっ!』
 ガーネット程ではないにしても、その巨体から繰り出される攻撃はさっきとは比べもの
にならないほど速く、さすがにトロンも唸りをあげて叩き込まれる真鬼王の連打をかわす
だけで精一杯だった。
 おそらくタイガの使う<雷舞>は、トロンが狐姫との戦いでみせた自身のリミッターを
一時的に解除するタイプのスキルなんだろう。その攻撃はまさに目にも留まらぬ速さで
舞っているように見えた。
 あたしはタイガの猛攻をかろうじて防ぐトロンを見ながら、これだけ接戦になってしま
うと下手にアドバイスをしようものなら、かえってトロンの集中力をみだしてしまうことが
わかっているだけに、何もできない自分に臍を噛む思いだった。
 嵐のような真鬼王の乱打を捌く度にソウルテイカーから火花が上がり、その都度、漆黒
の装甲が無残に削り取られていく。
 このままでは一方的にトロンが消耗するだけであり、なんとかこの場を切り抜ける方法
はないものかと普段使わない頭をフル回転させていたあたしは、トロンが真鬼王の猛功を
受けながら、チラチラとある一点に視線を向けているのに気がついた。
「ん? あれってマンション……」
 そう、トロンはタイガの背後にあるマンションらしい建物に、ううん、どうやらその屋上に
視線を向けているようだった。
 だが、その行為はタイガレベルの実力者を前に無謀な行為としか言えず、あたしがその
事を注意しようとしたがタイガはその一瞬の隙を見逃さず、真鬼王の放った拳がトロンに
直撃する。咄嗟に両腕を交差させダメージを軽減させるが、衝撃そのものまでは消すこと
ができず、ものすごい勢いで背後のビルに叩きつけられてしまう。
『がはっ!』
「トロンッ!」
 ビルの壁面に身体の中ほどまでめり込ませ、トロンはようやくその動きを止めた。
『へっ! これで勝負ありだな。どうする? 降参するか?』
 苦痛にうめきながらトロンは顔をあげる。その動きに合わせて、無残にヒビの入った壁
からパラパラとコンクリートの破片がトロンの頭上に降り注ぐ。
 だがトロンは気にした素振りもみせず、タイガを真正面から睨みつけると、全身を襲う
痛みに耐えながらも不敵な笑みを浮かべた。
『くっ、そうだね……キミが三遍回って『にゃ~あ』と鳴いてくれたら考えてもいいかな?』
『……それが答えか?』
 どこまでも不遜な態度をみせるトロンに、さっきまでとは打って変わって静かな口調で
で尋ねるタイガ。
 そのタイガの燃えるような瞳から目を逸らすことなく、トロンは力強くうなずく。
 タイガはわずかに目を細めると、いきなりトロンの顔面めがけて真鬼王の拳を叩き込ん
だ。
 だが真鬼王の一撃は、陽炎のようにゆらめいたトロンの身体をすり抜けると、背後の壁
に巨大な穴を開け、ようやくその動きを止める。
 呆然としたまま、眼前から薄笑いを浮かべたままスッと消えていくトロンの姿が残像だ
と気づくと、タイガの表情が驚愕に彩られる。
『どうかな、ボクの<アクセル・ハート>。 気に入って……もらえたかな?』
『なっ!?』
 いきなり背後で聞こえたトロンの声に、肘までめり込んだ真鬼王の腕を引き抜きながら
タイガが慌てて振り返ると、背後に金色の瞳で自分を見つめるトロンがたたずんでいた。
 その表情が苦痛に歪んでいるのは、いままでのダメージプラス、たったいま使ったスキ
ルの反動のせいだろう。タイガの隙を突き、背後から襲いかかる絶好のチャンスにもかか
わらず、トロンが動かないのは狐姫との戦いの時と同様に、全身を襲う激痛に身動きでな
い状態なのだろう。
『こ、この野郎───ッ!!』
 おそらくタイガはトロンの現状に気づいていなかっただろう。けど、己の内に生じた恐
怖を怒りに変えて放った真鬼王の蹴りは、ノーガード状態のトロンの腹部に吸い込まれる
ように命中すると、そのままトロンを空高く蹴り上げた。
 真鬼王の出力がどれぐらいあるのかわからなかったけど、トロンは三階建てのマンショ
ンの屋上にある貯水タンクに激突してようやくその上昇を止めた。
「トロンッ!」
 インカムを投げ捨て立ち上がったあたしは、声の限りに叫んでいたが、トロンはあたし
の声になんの反応もみせずピクリとも動かない。
 やがてタンクにめり込んだままだったトロンが、静かに倒れこむようにマンションの屋
上に落下してその姿が見えなくなる。
「そ、そんな……」
 愕然としたまま立ち尽くすあたしの耳に、タイガのマスターの声がかすかに聞こえた。
 
                   勝負はついたな……と。
 
 
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コメント


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やっぱりテンポがよくてスラスラと読めてしまいますね!

絶体絶命のトロンさん、いったいどうなるやら!

・・・真鬼王 ジュルリ

初瀬那珂 | URL | 2012-11-18(Sun)23:35 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

最近、ギャグシーンが多すぎて話の流れが悪いかな? などと考えていたので、テンポがいいと言ってもらえてホッとしております。

はじめてソウルテイカーを使用したトロンとタイガのバトルも、ようやく次回で決着を迎えます。

お楽しみに!

シロ | URL | 2012-11-19(Mon)19:55 [編集]


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まとめ【わんだふる神姫ライフ】

『それって……どういう意味?』 唖然としているあたしの心を代弁するかのように、訝しげにトロンが口を

まっとめBLOG速報 2012-11-26 (Mon) 05:10