神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第37話

 唖然と立ちつくすあたしの耳に響いたタイガのマスターの抑揚のない声は、まるで死刑
を宣告する裁判官の声のように聞こえた。
 そんな自分のオーナーの声を黙って聞きながらトロンの吹き飛んでいったマンションの
屋上を見上げていたタイガが、訝しげに目を細めた。
 トロンの激突した大型の貯水タンクが、耳障りな音をたてながら自分の方めがけて急激
に倒れこみ始めたのだ。
 いくらトロンの衝突したショックで傾いていたとはいえ、あまりに早いそのスピードにあた
しが呆然としていると、コンソールの上に投げ出してあったインカムから切れ切れに微かな
声が聞こえてきた。
『まずは……水難の…相』
 あたしはその声にハッとなりながら、慌ててコンソール上のディスプレイに表示された
一点を食い入るように見つめた。
 
          トロンの体力ゲージは、まだゼロになっていなかった……
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
           第37話 「ソウルテイカー そのよん」
 
 川の水が川上から流れるのが当たり前のように、貯水タンクもまた、一度加速のついた
自らの重さを支えられず支柱をへし折りながら軋む様な音を立て、タイガめがけて落下を
始める。
『くそっ!』
 かなりの速度で落ちてきたのにも関わらず短い舌打ちをひとつすると、風のようにタイ
ガは身をひるがえす。
 紙一重のところでタイガの身体を掠めるようにして、巨大なタンクがアスファルトを震
わせながら、轟音をたてて落下する。
 貯水タンクの外装など、その厚みはたいした事はないのだろう。自らの中に蓄えられた
水の重さと落下のショックに耐えられず、一瞬にして原型を留めぬほどにひしゃげると、
大量の水をあたり一面に撒き散らし、タイガの足元にまるで小さな池を思わせるほどの水
溜りを作り出した。
 全身ずぶ濡れになったタイガが、無言のまま顔に跳ねかかった水を手で拭うと、怒りも
あらわに足元の貯水タンクを蹴り飛ばした。 
 自分の身長を軽く超える大きさのタンクが、近くの建物に叩きつけられる。
 それでもまだ気分が晴れなかったのか、苦虫を噛み潰したような顔のまま屋上に射るよ
うな視線を向けたタイガの表情が、瞬時に凍りつく。
『うおっ!?』
「トロン!」
 言葉は違えどあたしとタイガは同時に叫んでいた。あたしたちの視線の先、マンション
の屋上から身を投げ出し一直線にタイガめがけて落下するその黒い影は、全身ボロボロ
になったトロンだった。
 まるで刀でも持っているかのように大きく右手を振り上げながら落ちてくるトロンを、理解
できないといった様子で見守っていたタイガの目前で、手刀のように揃えられたソウルテ
イカーの指先から突然、真紅に輝くビームソードが発生する。
 予想もしない事態にタイガの目がこれ以上はないというほど見開かれるが、咄嗟に真鬼
王の腕をかざすとトロンの奇襲を紙一重で受け止める。
 ソウルテイカーのビームソードと真鬼王の腕が接触したとたんに、目も眩むほどのスパ
ークがふたりの間に起きる。
 だがそれも一瞬の間のことで、トロンのビームソードがみるみる真鬼王の巨腕を溶かし
食い込み始める。
 トロンの体重プラス落下の勢いで押さえつけられるような状態になっていたタイガだが
小さく舌打ちをすると、すぐに体勢を立て直しながら残った腕をアッパー気味にトロンめ
がけて叩き込んだ。
 だがその攻撃もトロンにとっては想定内の出来事だったのか、焦る様子もみせず唸りを
たてて迫り来る真鬼王の拳に足をかけると、その反動を利用して大きくトンボを切りなが
ら二回、三回と後方宙返りを繰り返し、思わずあたしが見惚れるほど見事な着地を決めて
みせる。
 ビームソードの威力で無残な傷痕のついた真鬼王の腕をしばらく見ていたタイガが、何
を考えているのか、着地した後もずっとポーズをとっているトロンを睨みつける。
『災いは天より舞い降りるか……けっ! インチキ占い師の言う災いってのは、こんなチ
ンケなことなのか?』
 怒りを侮蔑もあらわな言葉で覆い隠しながらタイガが尋ねると、トロンは気にした素振
りもみせず、軽く肩をすくめてみせる。
『まあね。でも、水難の相はばっちり当たったよね?』
 全身ずぶ練れになったタイガの姿を見ながら、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる
トロン。
 それ占いじゃなくて計画的な犯行だろ? とあたしは思わず心の中でツッコんでいた。
 呆れるあたしとは対照的に、怒りで身体を震わせていたタイガが我慢の限界に達したの
か、いきなりトロンめがけて突進した。
 タイガのマスターが、静止させようと必死にタイガに話しかけているようだったけど、頭に
血が上った状態のタイガの耳には届いていないようだった。
 もうスキルの効果は切れてしまったのか、さっきまでのスピードは影を潜めていたけど
それでも風を切りながら怒りにまかせて繰り出される攻撃の凄まじさは、それを補って余
りあるものだった。
 けれど、嵐のようなタイガの攻撃をトロンは顔色ひとつ変えずにかわしてしまう。
 真鬼王のスピードとパワーは確かに脅威には違いないだろうけど、その攻撃はどちらか
といえば直線的かつ単調なものであり、ある程度タイガの攻撃パターンを把握したトロン
にとって、攻撃を回避することはそう難しい物ではないことは容易にわかった。
 ソウルテイカーを装備しているせいなのか、普段以上になめらかな動きで真鬼王の猛攻
を避け続けるトロンに、タイガの表情が険しくなる。
『ち、ちくしょ───ッ!』
 まるで当たらない攻撃に業を煮やしたタイガが、足元に溜まっている水をいきなりトロ
ンめがけて蹴り上げた。
 癇癪を起こした子供のような行動だったけど、いきなり遮られた視界に短い舌打ちを打
ったのは、トロンにとっても予想外の出来事だったのだろう。
「トロン! 上よっ!!」
 あたしのあげた金切り声に、しきりに目をこすっていたトロンが頭上を振り仰ぐ。
 ようやく戻ったらしいトロンの視界に、背部に巨大なブースターの光球を背負った真鬼
王がトロンめがけて一直線に降下してくる。
 このままでは真鬼王の攻撃を避けられないと判断したのか、トロンは背後に手を回すと
ケースから抜き取ったコンバットナイフを、急降下してくるタイガめがけて投げつけた。
 ほんの一瞬の差だったかもしれないけれど、自分めがけて飛来するナイフはタイガを掠
めるように飛び去りタイガはそれに気をとられてしまい、結果として真鬼王の巨大な脚が
アスファルトに深々と食い込み大量の破片を撒き散らした時には、トロンはすでに身を捻
りながら地面を転げ回りタイガから距離を離した後だった。
 悔しそうにトロンを睨みつけるタイガをトロンは無言で見ていたが、急に真面目な顔で
空の一点を指差した。
『アッ、アブナイ! アレハナンダッ?』
「「『…………』」」
 あまりにも感情のこもらないトロンの棒読み丸出しのセリフに、あたしやタイガはおろ
か、タイガのマスターまでポカンとした表情になっている。
 でも、あまりにわざとらしいトロンの態度に上を見るものなど誰もなく、タイガも軽蔑
を隠そうともせずトロンを睨んでいる。
『ちっ、そんなわざとらしい手に引っ掛かるかよ! だいたい手前ェは……』
 侮蔑を含んだ声で話しかけるタイガの声は、いつの間にか水溜りから身を離し、耳まで
裂けた唇に邪悪な笑みを浮かべ、自分を観察するかのように見守るトロンの姿が目に入っ
た途端に止まってしまった。
 わけがわからず、あたしが口を開こうとした時、上から落ちてくる黒い紐のような物が
視界の端に映った。
 そしてその黒い紐がタイガの足元にある水溜りに触れた途端、目も眩むほどの閃光があ
たしの視界を覆った。
『がぁああぁ嗚呼ああああァアあッ!!』
 目を覆わんばかりの光のなか全身を震わせ、血を吐くような絶叫をあげるタイガを前に、
トロンは絶え間なく走るスパークに片手をかざしながら目を細めると、小さくつぶやいた。
『災いは天より舞い降りる。……だから言ったのに……危ないって』
 もうとても見ていられない。と言わんばかりに眼前の光景から目をそむけ、悲しそうに
頭を振るトロン。
いや、だからあんたの所為でしょう? と心のなかでツッコみながら頭上に目をやると、
すぐ近くにある電信柱から、一本の高圧電線がその切り口から断続的に起こるスパークを
纏わりつかせ、力なく垂れ下がっているのが見えた。
 あたしは、トロンがナイフを投げつけたのはタイガにではなく、背後の電線を狙ってい
たのだという事に気がついた。そして、自ら貯水タンクを落下させたのも、タイガを確実
に感電させるためだという事にも……
 
 あたしが今更ながらトロンの悪賢さに呆れながらも感心していると、断末魔の叫びにも
聞こえるタイガの声とともに、ひときわ激しい光がフィールドを覆った。
 閃光は一瞬でおさまったが、その後には水蒸気のようなものがフィールド全体を覆い、
何も見えない有様だった。
 おそらくタイガの足元に溜まっていた水溜りが蒸発しために出来た物なんだろうけど。
「!?」
 あたしは薄くなってきた水蒸気のなかに、巨大な人影を見たような気がして目を凝らし
て注視していると、それは無数の白煙を纏わりつかせながら立ち尽くすタイガの姿となっ
た。
 唖然とするあたしを尻目に、タイガは壮絶な笑みを浮かべると今まで受けたダメージ
など感じさせない勢いで、トロンめがけて突っ込んでいく。
『まったく……でも、その闘志に敬意を表してボクも全力でやらせてもうよ。タイガ!』
 苦笑いを浮かべたトロンだが、いままでの態度がウソのように真摯な表情になると、ゆ
っくりと黒光りする拳を胸元の高さにかまえる。
 渾身の力を込めて放たれるタイガの攻撃を難なくかわすと、がら空きになったタイガの
身体にトロンの拳が吸い込まれ、タイガの腹部で目も眩むような閃光が放たれる。
そして、タイガはゆっくりとアスファルトの上に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。
『ふぅ~、やれやれ。やっと終わったか……』
 声そのものに疲れを滲ませたトロンのつぶやきを聞きながら、いったい何が起きたのか
理解できないあたしだったが、とりあえず制服のネクタイゆるめると大きなため息をひと
つついた。
 
                         ※
 
『さてと……約束通り、説明をお願いできるかな?』
 タイガとのバトルが終わった後、例の如く休憩所へと場所を移したあたしたちだったけ
ど、ソファーに腰掛けたまま誰も口を開かない状態に業を煮やしたトロンが、テーブルの
上に仁王立ちになるとジロリとタイガを睨みつける。
「それは、おれから話そう」
 トロンと目が合うとバツが悪そうにソッポを向いてしまったタイガに変わって、足を組
んだまま黙ってコーヒーを口に運んでいたタイガのマスターが、ようやく重い口を開く。
「トロンのオーナー。つまり一ノ瀬さんにあまり良い噂を聞かなかったものでね……」
「あ、あたしがですか?」
 予想もしない一言に、自分を指差しながら驚いているあたしを、タイガのマスターは感
情を表にださず小さくうなずいた。
「つまり君が自分の神姫を……トロンを日常的に虐待しているという噂を聞いてね」
「そ、そんな? それは……」
 「誤解です!」口から出掛かったその一言を、あたしは続けることができなかった。確
かにいつもあたしにちょっかいをかけてくるのはトロンかもしれない。
 でも、すぐにかっとなって手を出してしまうあたしにこそ、一番の問題があるのは事実
だった。
 多分この店に来る神姫やオーナーたちは、トロンとバトルをすることであたしが逆恨み
をするとでも思っているのだろう。
『それは誤解だよ』
 あたし自身の性格のせいで、対戦相手もみつけられずトロンにも辛い思いをさせていた。
 そう考えながら落ち込んでいたあたしは、突然投げかけられた救いの言葉にハッとして
顔をあげる。
『リンは不器用な子だから、自分の気持ちを素直に言えないだけなのさ』
「……確かにそうなのかもしれないな」
 トロンがあたしを庇ってくれたのにも驚いたけど、それをあっさりと肯定したタイガの
マスターの一言は、あたしをもっと驚かせた。
「実はずっと疑問に感じていた。自分の神姫を虐待するオーナーが、何故リアルバトルを
嫌うのか、とね。だが、今のトロンの言葉でそれがわかったような気がする。……それに
自分の神姫に『嫁』呼ばわりされるオーナーには、初めて会ったしね」
 そこまで話して、初めて屈託のない笑みをあたしに向けたタイガのマスターを見ながら、
あたしはようやく、この人は神姫という存在を大切に思っているのだと気がついた。
 最初に会った時にみせたあの表情は、噂で聞いたあたしに対する嫌悪の情だったのだろ
う。
「だから言ったろ? 一ノ瀬ちゃんはそんな娘じゃねぇってよ!」
 それまで腕を組んだまま黙って腰を下ろしていた桜庭さんが、やれやれといった様子で
ようやく口を開いた。タイガのマスターさんも苦笑いを浮かべながら桜庭さんに向かって
微かに頷く。
「まっ、後のことは任せといてくれよ。この店に来る他の連中には、一ノ瀬ちゃんの誤解は
おれ達がきっちりと説明しとくからよ!」
「あ、ありがとうございます!」
 歯を剥き出すようにして笑う桜庭さんに、あたしは心の底からお礼を言った。
『お、おい! それよりコレはいったい何なんだよ?』
 
 同じ物を見たはずなのに、眉をかすかに動かしただけのタイガのマスターさんとは違い、
ガタガタと震えながらタイガが指差す先には、遂に力尽きたのか、テーブルの上に横たわ
り空気の抜けた風船のようにしぼんでいくトロンの姿があった。
 
 
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コメント


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手に汗握る戦いも終わり、ふしゅーっと空気の抜けたトロンさんw お疲れ様です♪

そして隣さんによる神姫虐待疑惑w ま、まぁ、身長15cm相手にマジギレしたりマジつっこみしていればそうも見えるかもwww

ああ・・・真鬼王いいな!

初瀬那珂 | URL | 2012-12-02(Sun)01:43 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

相も変わらず、舌先三寸なバトルばっかりやっているトロンですが、ようやくソウルテイカーを使った初バトルも終了しました。

このSSは、隣とトロンのド突き漫才(?)がウリのひとつですが、隣のツッコミ(攻撃)は強まる一方です。
ですが、トロンは空気が抜けていくようにしぼむ神姫! まあ大丈夫でしょう(笑)。

私も、今回SSを書いていて、また真鬼王が欲しくなってしまいました。
ひさしぶりに、中古ショップ巡りでもしてみようかな?

シロ | URL | 2012-12-03(Mon)08:53 [編集]