神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第38話

「ふぅ~ん。そりゃあ災難だったな……」
 そうつぶやくと、口いっぱいに頬張ったハンバーガーを咀嚼しながら、佐山さんは横に
視線を移した。
「そうだね。でも、トロンらしいといえばトロンらしいよね」
 ゆったりとした仕草でドリンクを飲んでいた秋野さんも、ストローから口を離すと苦笑
している。
 ある日の放課後。あたし達は揃って近所のファーストフード店。コンバット・フライドチ
キンに寄って話し込んでいた。延々とトロンに対しての愚痴を聞かされるふたりに浮か
ぶ苦笑いの意味に気づかず、あたしの話は続く。
「まったく。トロいくせにちょっと目を離すとあいつったら何しでかすか……ん?」
 そう言いながら、テーブルの上のポテトに手を伸ばしたあたしだったが、指先に触れた
妙な感触に眉をひそめる。
 断じてポテトとは違うソレを引っ張り出してみると、あの小さな入れ物のどこに入って
いたのか、全身にポテトの破片を纏わりつかせたトロンがズルズルと出てきた。
 頭のてっぺんから爪先まで油でテカテカになったトロンが、口いっぱいにポテトをほお
ばり、親指を立てながら満面の笑みを浮かべ、あたしを見上げている。 
 
あたしは無言でトレーを持って立ち上がると、店の入り口近くにあるゴミ箱まで歩いて
いき、何のためらいもなくトレーに乗っていたカラ容器や“ゴミ”をそのまま捨てた。
 
                  わんだふる神姫ライフ
 
            第38話 「ソウルテイカーの秘密」
 
『ヒドイじゃないカ! いきなりナニすんのサ?』
 根性で這い上がってきたのか、ゴミ箱の扉を押し開けながら、ケチャップやら紙クズで
全身を飾り立てたトロンが、噛み付かんばかりの勢いで文句を言ってくる。
 あたしはそれを、冷ややかな目で見下ろしていた。
「あっ、ごめん、いたんだ? 全然気がつかなかったわ」
『そんなわけないだロ! ちゃんとボクと目があってたじゃないカ』
「いや~、そんな開いてんだか閉じてんだかわかんない目で言われてもねぇ」
 意地の悪い笑みを浮べながらツッコミ返すあたしにカチンときたのか、さらに食って掛
かろうとしたトロンが、何故か『ヨッ』、『ホッ』、『アレ~ェ?』とか言いながら奇妙な顔芸
を始めた。
「……何やってんのよ?」
『いヤ、実はさァ、さっきかラ……ホリャッ! 目が開かなくてさァ、セイッ!!』
 怪訝な顔で尋ねるあたしに、珍しく困りきった顔で奇怪な顔芸を続けながらトロンが答
えるが、あたしだって目の前の光景に困惑するしかなかった。
「はぁ? なに言ってんのよ? ほらっ、とにかく顔をこっちに向けなさいよ!」
 さっき目が合ったとか言ってたわよね~、とか思いながらも、このままにしとくわけに
もいかず、あたしはトロンに顔を近づけると、その小さな顔を指先で軽く持ち上げながら
マジマジと見つめた。
「何よ、この目の周りにべッタリついてるのは? これって……目やに?」
 あたしはトロンの顔を見ながら眉をしかめると、ハンカチを取りだし、ブツブツと小言
を言いながらトロンの顔についた目やにをふき取り始める。
『い、イタッ! い、痛いヨ。リン…もっとやさしク』
 いきなりハンカチでゴシゴシやり始めたあたしに、トロンが悲鳴にも似た声をあげなが
ら抗議する。
「だってしょうがないでしょう? 全然とれないんだもん! だいたい何よ、この目やに
の量は? トロン、あんた顔ぐらい毎日洗いなさいよね!!」
 ガビガビにこびり付いた目やにをこそげ落としながら、ゲンナリした気分になっていた
あたしだったが、微かに聞こえる忍び笑いにフッと顔を持ち上げる。
 目の前に座っている佐山さんたちは、あたしの方をチラチラと見ながら必死に笑いを堪
えているようにみえた。なぜ笑われているのかわからないあたしがキョトンとしていると、
ようやく佐山さんは口を開いた。
「しっかし、なんだかんだいって、お前らほんとうに仲が良いんだな」
「へっ、仲が……良い?」
 あたしをまっすぐに見つめ、苦笑いを浮かべる佐山さんの言葉をそのまま反芻している
と、秋野さんも笑顔を浮かべ、あたしたちを交互に見ながら静かにつぶやく。
「一ノ瀬さんたちを見ていると、わたしも欲しくなっちゃうな……神姫」
「あっ、やっぱり唯もそう思うか? 実はおれもそう思っててさぁ」
 
神姫が欲しいって、トロンを見てそんな考えになるワケ? おふたりさん……
 
 この現状を目の当たりにしても、そんな考えが浮かんでくる佐山さんたちの心の広さに
呆れ……もとい、感心していたあたしを尻目に話が盛り上がり始めたふたりを、あたしは
拍子抜けした顔で見つめ続けていた。  
「そういえばこの間、トロンのヤツが自分で専用武装を作ってるって話をしてたよな?」
 ひとしきり神姫談義に花を咲かせていた佐山さんが、いきなりあたしの方を向くと、そ
う尋ねてきた。
「うん。それなら今、持ってきてるけど……」
 この後、DO ITに行く予定だったあたしは、ソウルテイカーの入った鞄に視線を移すと
そう答えた。
「うっそ? なぁ、一ノ瀬。おれにソレ、見せてくれないか?」
「あ、わたしも見てみたい!」
 急にはしゃぎだすふたりを見ながら、あたしはどうしたものかと考え、テーブルに座り
込んだトロンの反応をうかがった。
『むゥ~。そうは言ってモ、これは機密あつかいだしネェ~』
 そう言いながら腕を組み、黙り込んでしまったトロンに、諦めきれないのか佐山さんは
詰め寄っている。
「大丈夫だよ、佐山さん。トロンのヤツ、みせたくてしょうがないみたいだから……」
 あたしはプイっと横を向いてしまったトロンの顔を覗き込みながら、いつもは弛みきっ
た顔に埋もれて見えないトロンの鼻が五ミリほど伸びているのに気づくと、大きなため息
とともにそうつぶやいた。
 
                          ※
 
『……まったく、失礼しちゃうよ、あの茶髪女!』
 金色の瞳を怒りの色で染めながら、射るような視線であたしを見つめ、そう話しかけて
くるトロンにあたしは苦笑していた。
 ふたりに祭り上げられ、颯爽とソウルテイカーを装備したトロンを見た佐山さんの第一
声が「誰だ、お前?」では、確かにトロンがへそを曲げるのも仕方のないことだろう。
 
 まぁ、ふたりはトロンの寝ぼけてるところしか見たことがないわけで、このギャップの
差に佐山さんの起こしたリアクションは至極当然のものだったかもしれない。
 もっとも、あたしとトロンの顔を見比べながら佐山さんがポツリとつぶやいた「一ノ瀬
と同じで、目つき悪ぃな~」の一言には、さすがにあたしもカチンときたけどね。
「そんなに怒ることないでしょう? ふたりともあんたが珍しくてはしゃいでただけなん
だからさ」
 テーブルの上で、まだブツブツと小言を繰り返しているトロンに、あたしはそう言って
なぐさめの言葉をかける。
 
 なんだかんだと言いながらもソウルテイカーとトロン自身が珍しかったのか、ふたりと
も嬌声をあげ、嫌がるトロンを撫でたり抱きしめたりと、店にきていた他のお客さんの視
線が集中するほどのはしゃぎようだった。
 さんざん大騒ぎした挙句、この後ちょっと用があるからと風のように去っていった佐山
さんたちの後姿を、もみくちゃになったトロンが呆然と見ていたのがなんとも印象的だっ
た。
 
「ねえ、トロン。ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
 あたしはトロンの気持ちが落ち着いたころを見計らって、テーブルの上に座り込みなが
らベタベタ触られたのが気になったのか、しきりに紙ナプキンでソウルテイカーを拭いて
いるトロンに話しかけた。
『ん~、何? あらたまって』
「うん。こないだのタイガとのバトルでちょっと気になった事があってさ」
 心ここに有らず、といった様子で動かしていたトロンの手が、あたしの言葉を聞いてピ
タリと止まる。
『なんのこと?』
「とぼけないで! あの時、タイガの攻撃を捌けたのは“一重”の他に何かしたからなん
でしょう? それと、タイガにとどめをさした時に起きたあの光。あれはいったいなんだ
ったの?」
 この期に及んでまだ白を切るトロンに、あたしは少し語気を強めながら詰め寄った。
 
 ソウルテイカーがトロン自身の能力を底上げしていたとしても、それだけではあのタイ
ガの初撃を“一重”だけで捌くのは難しかったろう。
 そして最後にトロンが放ったあの一撃。何かが爆発した時の閃光のように見えたけど、
トロンはあの時、火器の類は一切フィールドに持ち込んでいなかった。
 ソウルテイカーにはあたしの知らない秘密がある。あたしはそうふんでいた。
『ま、いいか。リンには隠すことでもないしね』
 トロンはそうつぶやくと、あたしの目の前にいきなり拳を突きつけた。怪訝な表情を見
せるあたしの前で、トロンはゆっくりと手を開く。だけどその中には何もなく、あたしが
眉をひそめていると、微かな駆動音とともに掌の中央から何かが迫り出してきた。それは
トロンの小指ぐらいの大きさで、黒っぽい筒状の形をしていた。
「何これ?」
 目を細めて見ていたあたしだったが結局なんだかわからず、何気なくソレに手を伸ばす
と、呑気な口調でトロンが話しかけてきた。
『気をつけたほうがいいよ、リン。 モノは小さいけど、リンの指先ぐらいなら簡単に吹
き飛ばしちゃうからね』
「なっ!? ふ、吹き飛ぶって……いったい何なのよ、コレ?」
 慌てて手を引っ込めながらトロンの方に向き直ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮か
べたトロンと目が合った。
『これは指向性爆薬って言ってね、一定の方向にのみ爆発の衝撃を発揮されるように成
形された爆薬のことで、成型炸薬とも言うんだ。ほらっ、このカートリッジの先端を見てよ。
先っぽがおわん型に凹んでいるでしょう? これによってモンロー効果が発生し、爆発の
力をある程度強化できるようになっててね。ちなみにモンロー効果というのは……って、
ボクの話、聞いてる?』
 延々と得意気に説明を続けていたトロンが、ふとあたしに視線を向けると、訝しげな表
情になる。
「ウン。モチロンキイテタヨ! サイショノホウダケネ!!」
 あたしはビシッと親指を立てると、カクカクとした口調で答えた。
 しばらくあたしを無言で見つめていたトロンが、首を振りながら大きなため息をつく。
『ごめん。リンには少し難しすぎたみたいだね……それとリン。できれば鼻をかんだ方が
いいと思うよ? 垂れてるんだけど……鼻水』
 何かに耐えるように額を押さえながら話しかけてくるトロンの声も、幸いなことに、今
のあたしにはまるで届いてはいなかった……
 
                          ※
 
「つ、つまり、そのカートリッジの中に指向性爆薬とかいうのが入ってて、あんたはそれ
を使ってあの時タイガの攻撃をかわしたってこと?」
『まあ、そうなるかな?』
 ようやく我に返ったあたしが豪快に鼻をかみながら問いかけると、苦笑しながらトロン
が答える。でも、これでようやくあたしは合点がいった。
 トロンがあの時タイガの一撃を捌いたのは、やはりトロンの技量プラスソウルテイカー
の能力のせいだったんだ。おそらくトロンは“一重”でタイガの拳を捌くと同時に、掌の
指向性爆薬を爆発させ、その勢いを利用してタイガの攻撃を逸らしたのだろう。そして最
後にタイガに放ったとどめの一撃は、掌に仕込まれたものと同じ物がソウルテイカーの拳
にも搭載され、多分それを使った結果なのだと思う。
 最初はその細身のプロポーションから武器など内蔵されているとは思わなかったソウル
テイカーだったけど、両手のビームソードに拳と掌に内蔵された指向性爆薬(トロンは、ペ
レットボムって呼んでたんだけど)と、思った以上の武装の多さに、あたしは内心驚い
ていた。
「それにしても、あんたが創ったソウルテイカー……まだ他にも仕掛けがありそうね?」
 トロンの全身を、睨むように見ながらあたしがつぶやくと、トロンは口元を微かに吊り
上げる。
『まあね。でも、ボクはリンが思っているほど過剰な力をソウルテイカーに与えてはいな
いよ』
「それってどういう意味よ?」
 トロンの真意がわからず、あたしは眉をひそめる。
『言ったとおりさ。ボクがソウルテイカーに求めたものは、今のボクに無いものってこと。
たとえば攻防に使えるこのペレットボム(P・B)や、上半身や脚部に限定されるけど、
リンたち人間の関節に近い柔軟性とかね。ボクはリンから習った武術を最大限に生かす
ためにソウルテイカーを作ったんだけど……どうかしたの?』
 自分に酔いしれたように饒舌を披露していたトロンが、肝心な話もうわの空で、口をへ
の字に結んで腕を組みながら考え込んでいるあたしにようやく気づいたようだった。
『え~と。……ひょっとして、今の話でも難しかった?』
 あたしを見上げながら、どこか哀れむような口調で話しかけてくるトロンの声に、あた
しは我に返った。
「べ、別にそんなんじゃないわよっ! ……それよりトロン。行くわよ!!」
『へっ? 行くって……うわっ!?』
 あたしは勢いよく立ち上がると、ポケ~ってしているトロンと鞄を鷲づかみにしながら
一目散に店の出入り口へと向かった。
『ちょっと待ってよ、リン! 行くってどこに……』
「DO IT」
 あたしはトロンの言葉を遮るように一言だけつぶやくと、足早にDO ITへの道のり
を急いだ。

 
トロンに“アレ”を教えるために。
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コメント


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ソウルテイカーの腕にそんな危ないもんがっ!? なんだか全身にヤバそうなものを隠し持っていそうでワクワクします!

そして、トロンさんをゴミ箱へブチ込む隣さんw そら他人から見たら虐待だよ隣さんw はーどまんざい!

初瀬那珂 | URL | 2012-12-20(Thu)00:59 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

せっかくコメントをいただいたのに、返事が遅くなり申し訳ないです。
最近、公私の方がハンパなく慌ただしいものでして……。


ソウルテイカーは、基本的に暗器のカタマリのような武装ですからね。まだ、ヤバいものを隠し持っていそうです、地味ですけど(笑)。

まあ、ゴミあつかいされるのは、トロンにも責任があるわけでして……それにしても、傍から見ればこの二人、漫才やってるようにしか見えないでしょうね。夫婦漫才?

シロ | URL | 2012-12-23(Sun)09:06 [編集]