神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第39話

『痛だだだッ! ちょ、ちょっとタンマ! マジで腕が折れるって──リンッ!』
 悲鳴に近い声をあげながら、うつ伏せの状態で何度も地面を叩くトロンを見下ろしてい
たあたしは微かにうなずくと、肘と手首の関節を極められ、額にあぶら汗を滲ませていた
トロンの身体から静かに手を離した。
『ふむ、ほんとうに関節の構造はあたしたち人間に近いみたいね? それに、思った以上
に良い動きをするわ、コレ……』
 苦痛に顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がるトロンを…ううん、ソウルテイカーを見ななが
ら、あたしはあごに手を当て小さくつぶやいた。
『まったく! 店に着くなりいきなりこの仕打って、一体どういうつもりなのさ?』
 痛みだけではなく怒りのせいもあるのだろう。トロンは片腕を押さえながら金色の瞳に
怒りの炎を宿し、あたしをねめつけている。
『ごめん。ちょっとあんたのご自慢の武装を試してみたくってね。でもこれならトロンの頑張
り次第でモノにできるかもしれないわ』
 ニコリと愁眉を開くあたしに、トロンが怪訝そうな表情を浮かべている。
『モノにできるかもって……いったい何を?』
『“半歩”よ』
 あたしの答えに、トロンの顔はさらに曇ってしまった。
 
                     わんだふる神姫ライフ
 
               第39話     「半歩」
 
                     ── 三時間後 ──
 
「ふぅ~」
 仰向けに近い体勢までリクライニングされていたシートから身を起こすと、あたしはゴ
テゴテといろんなものが取り付けられ、結構な重さになっている大型のバイザーを外し、
大きなため息をひとつついた。
 気配を感じて移した視線の先では、アクセスポッドから瀕死の様相で這い出て来る、ト
ロンの姿が目に映った。   
 
                          ※
 
「で、どう? なんとかモノにできそう?」
 ソファーに腰掛け、自販機で買ったお茶を一口含みながら、あたしは目の前のテーブル
に話しかけた。
『いきなりそんなこと言われたって、わからないよ』
 トロンはそう一言だけ答えると、拗ねた様子でプイっと横を向いてしまう。
「もう、そんなにむくれることないでしょう?」
 あたしはトロンの態度に、少しやりすぎたかな~、などと心中で反省しながら苦笑いを
浮かべる。
 あの後、DO ITに着くなり店長さんを探し出し、どうしてもライドシステムを使わ
せてほしいと頼み込むあたしに、最初はとまどいの表情をみせていた店長さんだったが、
あたしの必死さが伝わったのか結局ライドシステムの使用を認めてくれた。
 でも、トロンにしてみれば理由もわからず、いきなり数時間にも及ぶあたしのシゴキに
つき合わされたわけで、トロンが不機嫌モードに突入しちゃう気持ちもわかるんだけどね。
 
『……でもさあ、どうしてこんな技があるのなら、もっと早く教えてくれなかったの?』
 トロンの態度にどうしたものかと思案していると、まだ不満そうなトロンがあたしを見
上げながら尋ねてきた。
「その理由は、あんたが一番わかってるんじゃない?」
 金色の瞳を真正面から見据えそう答えると、トロンは目を伏せてしまう。
 そう、トロンはその理由に気づいているはずなんだ。今あたしが必死になってトロンに
教えた“半歩”には、今まで以上に微妙なスピード、反射神経、そしてより繊細な体裁き
が必要だった。すくなくとも、最初のふたつの条件はトロンが持つ特性のおかげでクリア
していたけど、最後のひとつが問題だった。
 これはあたしがライドシステムを使い、自分が神姫という存在を体感できて初めて気づ
いたんだけど、あたしたち人間を雛形としてこの世に誕生した神姫たちだが、その関節な
どの柔軟性においては人間のそれに遠く及ばないと言う事実だった。
 もちろん、それ以前に作られたMMSに比べればその性能には格段の差があり、基本
的にはなんら問題のないレベルの話ではある。でも、こと合気道という特殊な武術に関し
ていえば、この差は決して軽視できない問題だった。
 
 そしてトロンは、このことに以前から気づいていたのだろう。今のままではレスティー
アに勝つ事が難しいと……だからこそトロンはソウルテイカーを必要としたんだ。ただ、
レスティーアとの決着をつけるためだけに。
 
 今のトロンにはまだ荷が重いと思い、“半歩”を教える事にためらいをもっていたあたし
だったけど、トロンの内に秘めた決意の強さに考えを変え、こうして特訓を始めたわけだ
った。 
 おそらくトロンが“半歩”をマスターできれば、レスティーアと互角に戦えるはずだ。
 
そう、あとたったひとつの問題をクリアーできれば……
 
『ふぅ。あと一週間か……』
 その時、あたしの胸の内の不安を、小さなため息とともにトロンが代弁してくれた。
 もうレスティーアとの再戦まであまり時間がないという事実が、あたしの気を重くして
いる原因だった。
「いまさらそんなこと言ってもしょうがないでしょう? こうなったら残った時間いっぱ
いあたしが特訓につきあってあげるわ! だから元気だしなさいよ。ね?」
 心にのしかかるような不安をトロンに覚られないように、そう言って微笑みかけるあた
しを見上げながら、トロンはうんざりとした口調でつぶやいた。
『はぁ~。あと一週間もリンにしごかれるのかぁ~。ボク、レスPと戦うまで生きてられ
るのかな……』
 
               って、お前の心配するところはそこか?
 
「で、これからどうするの? ライドシステムで特訓を続ける?」
 身体の奥底からこみ上げてくる怒りを何とか抑えながら、押し殺したような声で尋ねる
あたしに、テーブルの上のトロンは言葉ではなく特大のあくびでそれに答えた。
『う~ん、せっかくのところ悪いんだけど、そろそろタイムリミットみたいだか……ラ』
 そう言いながらあたしの眼前で、トロンの姿が劇的に変わっていく。佐山さんが評した
あたしとソックリだと言った目つきの悪い金色の瞳は糸のように細くなり、顔中の筋肉が
みるみる弛んで下膨れになっていく様は、まるでニュートンの万有引力の法則を体現して
いるかのようだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ? トロン!?」
 あたしの呼びかけも虚しく、間違いなく1~2割は縮んだトロンは、テーブルの上に倒
れ込んでしまう。
 勢い込んでいたあたしは思いっきり出鼻をくじかれ愕然とし、いまさらながらこの寝ぼ
け悪魔の活動時間の短さに文句を言うと、トロンのヤツはゴロリと身体の向きを変えなが
らお尻をポリポリと搔いている。
『エ~。でも人間のえらい人だって三時間ぐらいしか起きてない人いるジャン。え~ト、
ナ……ナポリタン…だっケ?』
「それをいうならナポレオンよ! それとナポレオンの三時間は、睡眠のほうでしょう?
あんたと一緒にするな!」
 こんなのに同類呼ばわりされたナポレオンに心の底から同情しながら、思わずテーブル
に突っ伏したあたしだったが、妙な視線を感じてフッとテーブルの下に視線を下げると、
レンズのような物と目が合った。
「?」
 薄暗いテーブルの下からこちらを覗いているソレを、目を細めて見ていると、それ携帯
サイズのビデオカメラのようだった。
 なんでこんなモノがここに? と眉をひそめながら、さらに視線を奥へとたどっていくと、
よ~く見知った顔と目が合った。
 あたしはあてずっぽうに足を蹴り上げた。
「きゃんっ!!」
 あたしのすねの辺りに軟らかい物がぶつかった感触を感じたのと同時に、悲鳴に近い声
が起き、テーブルの真ん中あたりで大きな音が上がった。
「あんたいったい、何やってんのよ!」
「ふにゅ~」
 身体を怒りに震わせながら大声で一喝すると、頭にできた大きなこぶをさすりながら、テ
ーブルの下から美佐緒のヤツがゴソゴソと這い出てくる。
「あっ、せんぱい。こんなところで会うなんて奇遇ですね?」
「……あたしもまさか,こんなところであんたに会うとは夢にも思わなかったわよ……」
 まるで気にした素振りもみせず照れ笑いを浮かべる美佐緒に、あたしは押し殺したよう
な声でつぶやいた。あたしの声のトーンから怒りの度合いを感じたのか、みるみる美佐緒
のひたいに珠のような汗が浮かび上がる。
「あ、あの、せんぱい! 今日はこんなところで何をしてたんですか?」
「……それはこっちのセリフよ。あんたこそこんなところで何してたのよ?」
「……え~と……」
「……言え……」
 ワナワナと拳を震わせながら、怒りを通りこして凄絶な笑みを浮かべるあたしに、観念
した美佐緒が指をくわえながらポツリとつぶやく。
「だってせんぱい、今日はめずらしく白だったから、つい……」
「はぁ? 何よ、白って……あっ!」
 意味がわからず、美佐緒の答えに眉をひそめるあたしだったが、すぐにその真意に気づ
くと慌ててスカートを押さえ込む。
 
                          ※
 
『すべては拙者の不徳の致すところ。かくなるうえは拙者、腹を切って隣どのに謝罪する
でござる!!』
「ちょ、ちょっと待って! やめなさいって、ガーネット!!」
 苦悶の表情を浮かべ、どこから取り出したのか、いきなり自分のおなかに脇差を突き立
てようとするガーネットを見てあたしは慌てて止めに入った。
「悪いのは美佐緒のヤツなんだから、ガーネットがそんなことしたって意味がないでしょ
う?」
 間一髪のところでガーネットの脇差をむしるように奪い取ると、あたしは必死にガーネ
ットをなだめすかした。
『くっ。しかし、美佐緒どのの犯した罪は拙者の罪! このままでは拙者の気が……』
 無念そうに唇を噛みしめながら、うつむくガーネット。
 
 これで着ている服が、セー〇ームーンとかいう大昔のアニメに出てきたキャラのコスチ
ュームじゃなきゃ、それなりに絵になってたんだろうけど……
 
 あたしはなんといって慰めさめるべきか思案していると、あたしの横から鏡餅のように
なったこぶを揺らしながら、美佐緒のバカがひょいと口をはさんできた。
「せんぱいの言う通りよ。ガーネットがわたしを止めることができなかったのは不幸な事
故なんだから、気にしちゃダメよ」
「あれは事故じゃなくて、あんたの所為でしょう?」
 あたしの迫力に、後退る美佐緒のバッグから転がり落ちてきたガーネットの姿があたし
の脳裏をよぎり、あたしは心底ガーネットに同情してしまった。
「だいたいあんなふうにタコ糸でぐるぐる巻きにされたら身動きひとつできるわけないで
しょう! あんたガーネットでチャーシューでも作る気だったの?」
 この期に及んでまだシラを切る美佐緒に、怒りの臨界点を超えたあたしがその頭にこぶ
をもうひとつ追加すべく詰め寄ると、ガーネットが慌ててあたしを引きとめる。
『と、隣どの、美佐緒どのには拙者から言い聞かせますゆえ、どうかこの場は……』
 テーブルの上で平身低頭してひたすら謝り続けるガーネットに、あたしもそれ以上何も
言えなくなり、大きなため息をひとつつくと諸悪の根源を睨みつける。
「まったく、今回はガーネットに免じて許してあげるけど。それにしても、その……あた
しの下着なんか撮ってどうする気だったのよ?」
 美佐緒が何を考えているのか理解できないあたしはジト目で一瞥するが、当の本人はキ
ョトンとした顔でしばらくあたしを見つめ返していたと思ったら、突然顔を赤らめながら
頬に手を当て、クネクネと腰をくねらせ始めた。
「いや~ん、もう知ってるくせに……せんぱいのエッチ!」
「お前に言われたかね────ッ!」
 自分の置かれた現状も知らずひとりはしゃぐ美佐緒のノーテンキっぷりに、怒りの限界
を超えたあたしが牙をむき出し美佐緒に跳びかかろうとすると、必死の形相でガーネット
があたしの前に飛び出してくる。
『お、落ち着くでござる。隣どの!』
 なんとかにあたしをなだめようとするガーネットに、我に返ったあたしは肩で息をしな
がら美佐緒のバカを睨むが、本人はニコニコと微笑んでるだけだ。くそっ。
『え~と。あ、隣どの。そういえば今日は、トロンどのは一緒でないのでござるか?』
 なんとか話を他のほうへ逸らそうと、キョロキョロしていたガーネットがポンと手を打
つとあたしに話しかけてきた。
「へっ? トロンだったらさっきからそこに……あっ!
 あたしはガーネットの問いに、反射的にテーブルの上を指差しかけ、思わず大声をあげ
てしまった。
 テーブルの上、ついさっきまでトロンが寝そべっていた場所は、美佐緒がぶつかった衝
撃で大きく盛り上がり、そこにいるはずのトロンの姿はきれいさっぱりと消えていた。
「やだ。妙に静かだと思ったら、どこ行っちゃったの? トロ~ン!」
 キョトンと顔を見合わせる美佐緒とガーネットをそのままに、あたしは慌ててトロンを
探し始めた。
『リ~~ン!』
「トロン! げっ?」
 しばらくそこらを探し回ってもまるでトロンの姿は見当たらず途方に暮れていると、あ
たしを呼ぶトロンの無邪気さ丸出し声が聞こえ、パッと顔を輝かせ声のほうを向いたが、
あたしの顔は山の天気のように一気に曇ってしまった。
『これ見テ~。ギザ10みつけたヨ~』
 そこには、自販機に下にでも吹き飛ばされていたのか、全身に綿埃を纏わりつかせたト
ロンが満面の笑みを浮かべ、ギザギザのついた十円玉をうれしそうにかざしながらあたし
の足元に走りよってくる姿があった。
『ほう、これはめずらしい。昭和二十六年物でござるな』
「よかったわね。トロン」
『うン! アレッ、どうかしたノ。リン?』
 まるで自分の置かれた状況に興味がないといわんばかりに楽しそうに話すトロンたちを
呆けたような顔で見つめながら、あたしは力なくソファーに腰をおろすとポツリとつぶや
いた。
 
「あと一週間。こんなんで大丈夫なの……」
 
 
 
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久々のSS更新楽しみに待っていました~

今回は、前回に続き隣さんとトロンさんの特訓がメインにして美佐緒が相変わらずブレない百合世界の持ち主ですね~w

しかし、トロンさんへ新たに伝授した技術は「半歩」ですか~
こういう技法が出てくるって事は、シロさん自身合気道等をある程度やっているからなんですかね?
小手返し等の普通の技は誰でも知っている場合が多いですが、歩法等は簡単に教えてくれない技術ですし、段持ち位の人じゃないと知らないんじゃないんですか?

しかし、ライドシステムを使えばソウルテイカー装備のトロンを手玉に取れる隣さんの能力は、レスティアを素で圧倒出来そうな気がしますねw
トロンvsレスティアのバトルが終わったら、エキシビジョンマッチとして隣さん(ライド済み)vsレスティアのガチマッチも見てみたいですな~

いっその事、外伝みたいな感じでレスティア戦が終わったら掲載してくださいませ。

それでは、続きを楽しみに待ってま~す(´・ω・`)ノシ

ASUR・A | URL | 2013-01-19(Sat)10:28 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。


いろんな意味で未熟な作品ですが、「待っていた」の一言は何よりも励みになります(ホロリ)。

一応、美佐緒はレギュラーなんですが、どうもこういう場面でしか登場させることができないんですよねぇ。
まあ、ハマり役ではあると思いますが(笑)。

私は運動神経は皆無なもので、武術はおろかスポーツとも無縁な日々を送っております。
当然、合気道もほとんど予備知識がないので、SS執筆にあたってネットやその手の関連書籍をいろいろ調べてました。
おかげで、技の名前だけは詳しくなりましたが(笑)。

そうですね、接近戦に限定すれば、あるいは隣ならレスティーアも圧倒できるかもしれませんね(ここらへんは、次回の話でトロンが隣に「戦う理由」を尋ねるシーンで似たようなセリフがあります)。

実は、それぞれのオーナーが自分の神姫にライドオンして戦うという話は(隣+トロン、美佐緒+ガーネットなど)、私も考えていたりします。
今はまだイメージ的なものしか浮かんでいませんが、いずれはこのネタで話を作ってみたいですね。

シロ | URL | 2013-01-20(Sun)10:13 [編集]


冒頭を読んで柔道技や合気道も通用しそうだな~なんて考えていましたが、なるほどなるほど…
確かに神姫のそれは生身に近い可動域ですよね。
つまり曲がらない方向に無理に曲げれば当然グキリ…当たり前と言われればそれまでですが…w
しかし体術を操る神姫って居そうで居ませんよね~
これをトロンちゃんがマスターすれば、相手の意表を突く一手になる…かも。
でなくとも、ヒブソウ状態で舐めプするのにも使えますねw

戦闘モード解除後のアレは例のデフォルメモードですねw
あのフェイスパーツは一度見た時からずっと脳裏に残ってますww

白井餡子 | URL | 2013-01-21(Mon)01:28 [編集]


>白井餡子さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

とにかくこのSSの主人公には個性をもたせたかったもので、考えた末にできたのがこんな戦い方をする神姫でした。

トロンは、『舌先三寸で相手を惑わし、隙を見て関節技で勝負を決める!』という一風変わった戦い方をしますが、じっさい強いかどうかと問われれば微妙でしょうね。
同じ接近戦を得意とするレスティーアが仮想敵ですので、かろうじて成り立つ戦い方ですが、トロンの武装は最新のソウルテイカーになっても飛行能力を持たないため、距離を取って戦う神姫が相手だと一方的にボコられているようですし(笑)。

まあ、これはトロンをあまり強い神姫にしたくないという私の願望故なのですが……。

それと、トロンの寝ぼけ顔を気に入っていただけたようで、うれしい限りですね。
あんな線だけ構成されたような顔ですが、完成させるまでに四苦八苦しましたので(笑)。

シロ | URL | 2013-01-21(Mon)19:13 [編集]