神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第40話

『くッ?』
 太刀を振りかざした紅緒の動きが、口元から漏れる苦鳴にも似たつぶやきとともに、ピ
タリと止まる。
 目の前にいるストラーフは、金色の双眼で黙って眼前の紅緒をねめつけていた。
 あたしは腕を組んだまま、ストラーフ……トロンと、対戦相手の紅緒の戦いを一瞬たり
とも見逃すまいと、食い入るようにふたりの動きを眼で追い続けていた。
『くそッ!』
 このままでは埒があかないと悟ったのか、紅緒は振りかぶった太刀をトロンの頭めがけ、
怒りを込めて叩き付ける。
 だがトロンを切り裂くはずの太刀は、なぜかその刀身のなかほどをソウルテイカーの肩
アーマーにわずかに食い込ませ、動きを止めてしまう。
 信じられないといった表情を浮かべ、かすかに首を振る紅緒の眼前で、ゆっくりとした
動きでトロンが顔を上げる。
 その金色の瞳の奥に何を見たのか。紅緒の目が限界まで見開かれる。
 トロンと接している事の危険さを知ってか、慌てて距離を取ろうと後ろに跳躍しようと
した紅緒の右腕を、トロンはなんの躊躇もなく鷲づかみにする。
 自身の跳び退る勢いと、トロンに万力のような力でいきなりつかまれた紅緒の腕が、限
界まで伸ばされ、関節が悲鳴を上げる。
 トロンは紅緒の手首を取ると、そのまま関節を極める。あまりの激痛に紅緒は顔を歪め、
握り締めていた太刀を落としてしまう。
 腕を駆け巡った痛みに紅緒は顔をしかめ、身体を浮かして痛みから逃れようとするが、ト
ロンはその動きに合わせ、彼女の肘に添えた左手を突き出すように持ち上げた。
 トロンの流れるような一連の動作にどのような力が込められていたのか、極められた手
首を中心に美しい弧を描きながら地面に叩きつけられた時ですら、きっと紅緒には理解で
きなかっただろう。
『さて、降伏か死か……どっちを選ぶ?』
 もはやピクリとも動かない紅緒の関節を極めたまま、トロンは紅緒のマスターに静かに
尋ねた。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第40話    「戦う理由」
 
「おつかれ、トロン」
 あたしはアクセスポッドからのそりと起き上がるトロンに、いつもとかわらぬ様子で笑
いかける。トロンも、いつもどおり軽いウインクでそれに答える。
『どう、ボクの“半歩”? もう完璧って感じだと思わない?』
 頭上の電光掲示板に表示される「WINNER ─── トロン」の文字にはまるで興
味を示さず、鼻高々に聞いてくるトロンにあたしはさらりと言ってのける。
「そうね。六十点ぐらいで完璧というのなら……まあ、それはそれでいいんじゃない?」
 
                          ※
 
「もう。いつまでふて腐れてるのよ?」
 今日も今日とて、いつもの休憩所でひと休みしながら、あたしはテーブルの上で膝を抱
えたまま座り込んでいるトロンに、苦笑しながら話しかける。
 トロンは頬をふくらませながらあたしをひと睨みすると、目を逸らしてしまう。
 
 レスティーアとの再戦を明日に控えても、トロンはギリギリまで戦うことを止めようとは
せず、ここ一週間足らずでトロンがこなしたバトルの回数は四十を超えていた。勝率こ
そ八割ぐらいだったけど、ここ数日のトロンの努力には頭が下がる思いだったし、それな
りに実力も上がってきていると思う。
 本当なら今のバトルだって九十点ぐらいあげてもいいぐらいの内容だったけど、すぐに
天狗になってしまうトロンを戒める意味で、ちょっとキツめの採点をしたんだけど……少
し辛口すぎたかな?
 
「……いよいよ明日ね」
 天上を見上げながら誰にともなくつぶやくあたしに、ようやくトロンは金色の瞳をあた
しの方に向けてきた。
『そうだね。……ねえ、ひとつ聞いてもいいかな?』
 急に真面目な口調になったトロンに、いぶかしげな表情をみせたあたしが口を開こうと
すると、それを遮るようにトロンは話をつづけた。
『リンにとって、戦う理由って何?』
「ど、どうしたのよ。急に?」
 いきなりのトロンの質問に面食らったけど、まっすぐにあたしを見るトロンの瞳に、そ
れ以上二の句が継げなくなってしまった。
『ボク、前から不思議に思ってたんだ。リンが神姫だったら、接近戦に限定すればボクや
レスPはおろか、多分ガンちゃんでもリンには敵わないと思う。リンはそれぐらい強いの
に、ボクがリアルバトルで傷つくのをあんなに嫌がっている。リンにとって戦いって……
戦う理由ってなんなのかな、って思ってね』
 トロンはもう一度おなじセリフを繰り返すと、あたしの答えをまっているようだった。
 あたしはしばらくトロンを真正面から見ていたが、視線を外すと眼を閉じた。
「……美佐緒……かな」
『みさキチ?』
 しばらくして、あたしの口からでた回答に、今度はトロンが面食らったような顔になる。
「美佐緒はね、いろんな事情があって、こどものころ近所の悪ガキたちによくいじめられ
てたんだ。あたしはそれをみかけるたびに、連中と取っ組み合いのケンカばっかしててね」
 昔を思い出し、少し照れくさそうに微笑むあたしを、トロンは口をポカンと開けたまま凝視
している。
『いじめられるって、あんなメルトランな女にケンカふっかけるヤツがいるの?』
「今でこそあんなんだけど、むかしはあたしの方が背が高かったのよ。そういえば、あの
頃の美佐緒は人見知りが激しくって、いつもあたしの後ろに隠れてたっけ……」
『へ~』
 こどものころと、今の美佐緒のギャップに、トロンが意外そうな顔をみせる。
「……それなのに美佐緒のヤツ、あれだけあたしに世話になった恩も忘れて、ひとりだけ
スクスクと(特に胸!)成長しやがって……」
『ちょ、ちょっとリン! 話がヘンな方に脱線してるって!!』
 今現在のあたしと美佐緒のいろんな差に、格差社会という言葉を噛み締めながらこぶし
を震わせ怒りをあらわにするあたしに、トロンが慌てて止めに入る。
 あたしは我に帰ると、照れ隠しに大きな咳払いをしてごまかした。
『それにしても、今の話がリンの戦う理由とどう結びつくんだろう? ボクには今ひとつ
話が見えないんだけど……』
 あたしが落ち着いたのを確認すると、トロンは不思議そうな表情を浮かべながら、そう
つぶやいた。
「それは……あたしが弱かったからかな?」
『弱い? リンが?』
「うん……あたしも向こうっ気の強いほうだったから、一対一なら連中に負けることなん
てなかったけど、あいつらたいてい数に物を言わせてきてね。美佐緒を守ってあげられ
なかったこともけっこうあったんだ。……あたしはそれがくやしくって、家に帰ってからも
自分の弱さがイヤで、よく泣いてたっけ。そんなある日、部屋で泣いていたあたしの後ろ
におじいちゃんが立っていてこう言ったの、「強くなりたいか、隣?」ってね。あたしは一
も二もなくうなずいたわ。それからかな? あたしがおじいちゃんから武術を習うように
なったのは……」
 トロンはそんなあたしの話を茶化すことなく黙って耳を傾けていたが、やがて口を開い
た。
『そっか、……でも、リンは戦いそのものを嫌っているわけじゃないよね? ボクに初め
て合気道を教えてくれたあの日、リンは笑ってたもんね』
 何気ないトロンの一言に、あたしはギョッとしながら視線をトロンに投げかけた。
「あんた、気づいてたの?」
 あたしの言葉に、トロンは笑いながら首を縦に振った。
「まったく、いつもボ~ッとしてるくせにヘンなとこだけ目ざといんだから……まあ、確か
に美佐緒のヤツを守りたかったと言うのがあたしにとって武術を始めるきっかけには違
いないけど、鍛錬を重ねて自分が強くなってくのを実感できるのはイヤな気分ではない
わね」
 苦笑いを浮かべながらそう答えるあたしに、トロンは怪訝そうな顔をする。
『でも、それならどうして、リンはボクが戦うことをあんなにいやがってたの?』 
 トロンの疑問は至極当然のものだったと思う。あたしはそんなトロンを黙って見ていた
が、ぽつりと話しだす。
「……あたしは戦う時にいつも“覚悟”を忘れないようにしている。立ち合いの際にあた
しがどんなに傷つこうとも、それはあたしの未熟さゆえ! いつもそんな気持で行動して
きた。でも、トロンたち神姫は違う。神姫はそういう風にプログラムされただけだってず
っとそう思っていた──だからイヤだったの。神姫はあたしたち人間のパートナーだと言っ
ておきながら、人間の暴力への身代わりとしてあんたたちを無理矢理戦いに狩りたてて
いるようで……」
『リン。ボクは……』
 何か思いつめたような表情で言葉に詰まってしまったトロンに、あたしは静かにうなず
いた。
「わかってる。ボ~ッとしているようにみえても、レスティーアに対するあんたの行動には
常に真剣さがあった。それに気づいたから、自分の意を曲げてあんたにあたしの全てを
教えたのよ?」
 あたしはここでいったん話をやめると、トロンの顔を見た。
「トロン。最後にあんたにひとつだけ聞いておくわ。明日の戦い、当然“覚悟”はできて
いるわね?」
 あたしの言葉に、トロンは力強くうなずいた。
                  
 
 
                    ─── そして約束の日 ───
 
 
 
 予想はしていたつもりだったけど、開いた自動ドアに飛び込んだとたん。あたしの足は
止まってしまった。
 DO ITの店内は、いつも以上に込み合っており、活気で湧き上がっていた。
「はあ、はあ。 あの、急いでるんです! 道を開けてください!」
 息を切らせながら嘆願するが、周りの人たちも自分の置かれた状況に困惑したような
表情を浮かべるだけだ。
「おいおい。一ノ瀬ちゃん!」
「桜庭さん!」
 いきなり雷鳴のような大声が轟くと、人ごみを掻き分け桜庭さんが大股で歩み寄ってく
る。
 遅れた理由を説明しようとするあたしを制するように、桜庭さんは話を続ける。
「姿が見えねぇと思ったら、こんなとこで何やってんだよ。さっきから二階で、姫宮が首
を長くして待ってるぜ?」
 そこまで一気にしゃべると、桜庭さんはあたしの返事も聞かず背後を振り返る。
「おらっ! 主役の御到着だ。道を開けなっ!」
 大きく腕を振りながら、割れ鐘のような声で怒鳴り散らす桜庭さんの迫力に気おされた
のか、人ごみが割れ、二階へと続く一本の道が開かれる。
「ありがとうございます。桜庭さん!」
 見る者が後ずさりしそうな凄みのある笑みを浮かべ、エスカレーターを指差す桜庭さん
の前を走りぬけながらお礼を言うと、あたしは姫宮先輩の待つ二階へと向かった。                  
 急いでエスカレーターを駆け上り(良い子のみんなはマネしちゃダメだよ?)二階へと
着いたあたしは、肩を軽く叩かれ振り返る。そこには、予想もしなかった顔があたしを見
つめ微笑んでいた。
「さ、佐山さん! それに秋野さんまで。ふたりともどうしてここに?」
 自分の神姫を持っていないはずのふたりがここにいることに驚いていると、佐山さんが
あたしの考えがわかったのか、さも心外だと言わんばかりに話しかけてきた。
「そんな意外そうな顔すんなよ。実はおれたち、結構この店に来てるんだぜ」
「そうなの。お店の中を覗いてまわるだけでも楽しくって……」
 はにかみながら答える秋野さんを見ながら、そういえば、あたしもトロンと出会う前は
ひとりでこの店を訪れては、ただ店内をウロウロしていたのを思い出し苦笑する。
「実は神代さんに、一ノ瀬さんが今日ここでバトルをするって話を聞いて、朝から陽子と
待ってたの」
 そう言いながら、後ろを指差す秋野さん。何気なく振り向くと、そこにはあたしに抱き
つこうと両手を広げ、仁王立ち状態の美佐緒の姿があった。あたしと目が合った途端、
美佐緒のヤツは口笛を吹きながら露骨に目を逸らす。
「まあ、親友の神姫がこの店でトップクラスの神姫と戦うって聞いたもんで、ちょっと気
になってな」
「えっ、親友?」
 そびえ立つ美佐緒を睨みつけながら、どう始末をつけてくれようかと思案していたあた
しは、何気ない佐山さんの一言におどろき視線をもどした。
「ん? どうかしたのか、一ノ瀬?」
「う、ううん。な、なんでもないよ……あ、ありがとう、ふたりとも……じゃあ、行って
くるね!」
 急にしどろもどろになってしまったあたしに、佐山さんが心配そうに話しかけてくるが、
あたしはふたりの顔を直視することができず、うつむいたままそれだけ言うと、ふたりに
背を向け走り始める。
 
 でもあたしの動きは、ほんの数メートルもしないうちに止まってしまった。目の前にあ
るシュミレーター。そのそばに音もなく立つ、姫宮先輩。
そして、先輩の横にあるコンソールの上に蒼穹の鎧を身に纏い、その碧眼に静かな
闘志を湛えたレスティーアの姿を見たときに……
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コメント


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遂にレスティアとの対戦が始まりますね~
今回は、今までの戦い全てにおいて根幹と化している隣さんの心情がメインな回でしたね。

確かに何をするにも「覚悟」を決めて挑んでいるかどうかで立ち振る舞い1つから変わってきますし、隣さんの本心と自身の覚悟を決めたトロンは今までよりも更に強くなったんでしょうな~
(身体的な強さってよりも精神的な強さの方で)

次から待ちに待った対レスティア戦の開始かと思いますが、正統派なレスティアさんvs搦め手の曲者トロンさんがどう対戦するのか今から楽しみです。

それでは、良い神姫ライフを~(´・ω・`)ノシ

ASUR・A | URL | 2013-01-25(Fri)11:22 [編集]


ようやくここまでたどりつきました。

今回は、好戦的な性格の隣が、なぜトロンがリアルバトルをするのをいやがるのか?
そこらへんの隣の心情にスポット当ててみました。

そうですね、たしかにトロンが隣から学んだものは、物理的な力だけではないと思います。
もっとも、日常的な隣のD☆Vに耐えているトロンのことですから、身体的にも強くなっているかもしれませんが(笑)。

一切の小細工を嫌い、真っ向から勝負を挑むレスティーア。そしてつねに相手の虚を突き、絡め手で攻めていくトロン。
まったく相反する戦い方をする二人の因縁のバトル、楽しんでいただければ幸いです。

シロ | URL | 2013-01-27(Sun)08:08 [編集]